『朝の波紋』

kenboutei2010-01-06

今年最初の神保町シアター五所平之助監督の『朝の波紋』を観る。昭和27年の新東宝映画。
オープニングに、晴海通りを日比谷から銀座方面へ向かって、ゆっくりとした移動撮影があり、釘付けとなる。国鉄の高架下を通り、遠くに和光ビル、すぐ左手には、マリオンではなく、日劇があって、左折して外堀通りへ。自分も慣れ親しんでいる銀座の昔の情景を、記録映画や写真以上に実感できる、貴重なショット。
映画の方は、高峰秀子演じる弱小商社のキャリアウーマン(といっても社長秘書なのだが)が、大手商社の妨害にもめげずに契約を勝ち取ろうとする筋に、その大手商社に勤める池部良と弱小商社の同僚の岡田英次との三角関係や、高峰秀子の家に預かっている子供・ケンちゃんと池部良との交流などが描かれる。
後の鈴木英夫監督の『その場所に女ありて』にもよく似た、働く女性に焦点をあてた企業ドラマでもあるが、当時としては珍しいテーマだったと思う。高見順の原作。
高峰秀子は、半年程パリに暮らした後の復帰第一作だったそうで、流暢に英語を話す場面があるのも、そういう経緯からだったのだろうか。
まだまだ敗戦の爪痕が残る東京の一端をかいま見せてくれるのも貴重であった。浅草(上野だったかな?)で浮浪児が煙草を吸っている場面などもある。高峰秀子がバスを降りた六本木界隈は、ただの野原だったのだなあ。
高峰秀子が契約しようとしているモノは、アメリカへ輸出するクリスマスの飾り物で、その手内職は名古屋で女性達が一つ一つ作っており、輸出前に高峰秀子岡田英次段ボール箱検収するシーンもある。今の日本が、賃金の安いアジア諸国で作ったものを輸入しているのと、立場を変えて同じ構図であり、高度成長期前の日本経済の実情もわかって興味深いものがある。
池部良は、のんびりした大手の商社マンを、感じ良く演じていた。
上原謙、高田稔らがチョイ役で出演する他、斎藤達雄、吉川満子、三宅邦子など、たまたま昨日観た『戸田家の兄妹』のキャストが多く出ていたので、偶然とはいえ、不思議な親近感を覚えた。(新東宝にはどのように役者が集まってきたのか、その経緯にも興味を持った。)
怪優沼田曜一が、吉川満子が出しているどじょう屋の息子。池部良の後輩で、さわやかな好青年であった。
浦辺粂子池部良の家の婆やで、耳が遠くて聞き間違えるという、志村けん風ボケを演じていたのも面白かった。
戦前の映画で知った、『妻よ薔薇のやうに』などの大川平八郎がケンちゃんの先生役。
クレジットに出ていた香川京子は、家出したケンちゃんを預かっている施設のシスター役。ほんのちょっとの端役であった。