『女が階段を上る時』

kenboutei2010-09-07

神保町シアター。成瀬・高峰コンビ。昭和35年
菊島隆三脚本で、銀座の夜の世界の生態を描く。
高峰秀子のバーのママに群がる男たちは、言ってみれば『あらくれ』同様、ダメ男列伝。酒も飲めずに店に通い、高峰秀子が病気になると佃島の実家にまで見舞いに行く誠実さをみせるが、実は結婚詐欺であった加東大介、関西人らしく直裁にカネで女を囲おうとする中村鴈治郎、銀行の重役で見た目も紳士で、高峰秀子が惚れているのも承知していながら、相変わらず優柔不断な家族持ちの森雅之高峰秀子の兄で、子供の病気や裁判沙汰でいつも金の無心をする気弱な織田政雄、淡路恵子に店を持たせるが、彼女が自殺すると遺族にまで借金の督促をする小沢栄太郎、などなど、どいつもこいつも、といった感じであるのが、逆に爽快。
一方、銀座のバーで勤める淡路恵子や団令子などの女の方も、金と色の蠢く夜の世界で浮き沈みを繰り返している。
そんな中、一人自分を律し、流されないように気を張る高峰秀子の姿は、自伝で告白している彼女自身の女優としての姿勢と見事にオーバーラップしていた。
自分では嫌いな水商売の世界から一日も早く足を洗いたく、独立や結婚も試みるが裏切られ、結局は今日も店の階段を上っていくという、成瀬的「終わらない日常」の世界に戻って行く、高峰秀子であった。
それにしても、銀座の夜の世界は、今も昔も、そんなに変わっていないなあ。観ていて身につまされ、お尻がムズムズしてしまった。
店の売り上げの落ち込みを責めるマスターの山茶花究や、占い師の千石規子など、脇役の短いシーンも抜かりない配役。
成瀬映画では珍しく音楽が黛敏郎。冒頭の不協和音に違和感あり。
スチル写真などで印象的な高峰秀子デザインの片身替わりの着物は、場面的にはそれほど多く出てこなかった。

女が階段を上る時 [DVD]

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