9月歌舞伎座昼・夜

kenboutei2013-09-22

若手花形が昼夜奮闘。
昼の部
『新薄雪物語』
この座組では到底無理と思っていたのだが、熱演により傑作となった。杮落とし公演における収穫の一つ。
特に松緑菊之助染五郎での「合腹」が素晴らしかった。吉右衛門、芝翫、幸四郎らのような芸の深みを堪能するほどまではもちろんいかないが、子供のために親が犠牲になる、そのドラマを若手がしっかり演じたことに感動。観客が水を打ったように静かになり、息を潜めて三人の笑いに集中している。この静かなる熱気を生み出したのも、三人の真剣な演技によるもの。
染五郎の園部兵衛は、幸崎伊賀守からの刀についた血を見るところが良かった。
松緑の伊賀守は、花道七三での芝居はまだ硬いが、その必至さに伝わるものがある。
菊之助の梅の方は、三人の中ではもっとも安定感があった。笑いについても、丁寧でかつ不自然さを極力排し、いつもこの場で起こりがちな観客からの失笑を拒絶する力があった。
前回の吉・芝・幸の「合腹」も素晴らしかったが、今回の松・菊・染も、自分にとっては後々まで語りたい一幕となった。
もっとも、「合腹」の前までは、それほど面白くなかった。むしろ退屈。
期待していた海老蔵の秋月大善は平凡。声量がいつもより小さく、迫力に欠けた。二役の葛城民部の方が捌き役として、海老蔵らしさがあったが、この「詮議」の場は、大善の弟として秋月大学が登場し、大善と被るので、そのまま海老蔵が大善に出ていても良かったように思う。(大学は亀蔵で、これはまずまずだった。)
勘九郎の園部左衛門、梅枝の薄雪姫のカップルは一通り。七之助の腰元籬は、少し砕けすぎ。
愛之助の奴妻平と亀三郎の団九郎は安定。
「花見」での奴との立ち回り、傘の濃紫色が不統一。ブレイクダンス風の動きにも違和感があった。
それにしても、若手でこの難芝居を持たせたのは大手柄。
 
追い出しに、勘九郎七之助『吉原雀』

夜の部
陰陽師
夢枕獏の新作歌舞伎。終始会場が暗いので疲れた。昔のスーパー歌舞伎ではこんなことはなかったのだが。
染五郎陰陽師安倍晴明。その相棒で笛の名手源博雅勘九郎。国家転覆を企む平将門海老蔵。将門を陰で操る興世王愛之助。将門の友人だったが、後に将門退治に向かう俵藤太に松緑。その藤太と両想いだったが、結局将門の妻となり死んでいく桔梗の前が七之助。その遺児の娘滝夜叉姫が菊之助。(配役の紹介でおおよそのストーリーもなぞることができる。)
菊之助の滝夜叉姫が化け物に囲まれながら登場するシーンは、玉三郎の『海人別荘』を彷彿。他にも花四天をうまく使った巨大ムカデなど、歌舞伎の演出を巧みに利用したエンターテインメントに仕上がっている。
ただ、時間軸を行きつ戻りつの構成は少し煩わしい。海老蔵の将門が人肉を食う場面もグロテスク。将門側と陰陽師側で揺らぐ滝夜叉姫の立ち位置が不安定でわかりにくい。
初心者と一緒に観劇しても楽しめる歌舞伎。