『吸血鬼ゴケミドロ』(と、高英男)

kenboutei2010-01-08

9日に、歌舞伎座昼の部の後、銀座シネパトスのレイトショーで観る。(時間までは京橋の図書館とプロントでヒマをつぶす。)
歌舞伎もやってる松竹の作った、貴重な特撮SF映画。名前だけは知っていたが(何たって、「ゴケミドロ」だ。)、観るのは初めて。昭和43年、佐藤肇監督。
飛行機が空中で謎の遭難、不時着したところには、宇宙からの寄生生物がいて、乗客の一人の体内に入り、吸血鬼と化し、次々と他の乗客を襲う。
この寄生生物ゴケミドロは、以前から地球を狙っていて、人類抹殺を目的としており(と、人間に乗り移って解説してくれた)、主人公のパイロットとスチュワーデスがやっとのことで脱出すると、既に他の地域もゴケミドロに襲われており、宇宙からは仲間の円盤(律儀にアダムスキー型)が次々と飛来、青い地球があっという間に死の惑星に変わってしまうところで終わる。
あまりにも陳腐な破滅テーマのストーリーにもかかわらず、大真面目に演出しているので、突っ込みどころは満載。カルト化する理由もよくわかる。
ところどころに、ベトナム戦争のスナップ写真などが挿入され、厭戦気分を高めているのも、スタッフの真面目さを示していると同時に、時代の空気を感じた。
不時着した飛行機の中での人間の極限状態を描くという、もう一つの側面もあるにはあるが、悪徳政治家、その取り巻きの軍事企業の重役、精神科医宇宙生物学者、ベトナム戦争未亡人のアメリカ女性、自暴自棄の若者・・・など、登場人物がいちいちベタな劇画調で、苦笑せずにはいられない。
飛行機のセットと特撮の光学処理で全ての予算を使い果たしたのか、ロケはその後の戦隊モノでよく使われるような岩場が中心で、役者は飛行機の乗員の数人だけで済ましている。しかし、そのチープさが、逆に愛おしくなってしまうのも、否定できない。
ベタキャラの配役も、軍事企業の重役が金子信雄宇宙生物学者が高橋昌也、悪徳政治家に北村英三と強烈。主役のパイロットは吉田輝雄、スチュワーデスは佐藤友美。金子信雄の妻で、北村英三の愛人となっている女に楠侑子。
その中でも特筆すべきは、何と言っても最初にゴケミドロに寄生され、吸血鬼化する、高英男である。彼の存在なくして、カルト映画ゴケミドロは語れない。
最初は、外国の要人をライフルで暗殺したスナイパーとして登場する。極めてハードボイルドな設定なのだが、高英男自身は、顔の大きさといい、その濃さといい、どこから観ても時代劇役者か演歌歌手の佇まいである。この役柄とのギャップ、ミスマッチが、とても面白く魅力的であった。
ゴケミドロ化(?)してからは、一層強烈なキャラとなる。
白いジャケットに白い手袋、無表情でひたひたと近寄る様子は実に不気味。おまけにゴケミドロ本体は、スライム状で、額に穴を開けてニョロニョロと入り込み(この時の特撮が、役者の顔をかたどった人形を使っており、最大の突っ込みどころでもある。)、その傷跡として高英男の顔には、鼻から額にかけて裂け目状の突起ができる。横から見るとニワトリのとさかみたいで、正面からは女性の性器がくっついたようにも見える斬新な造形が、高英男の大作りな歌舞伎役者みたいな顔に、何故かフィットしており、一度観ると決して忘れることができない。
こんな凄い役者がいたとは知らなかった。おそらく、売れない下回りの俳優なのだろうなと、帰宅してネットで調べると、何とシャンソン歌手であった。凄いキャスティングだ。

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さて、高英男である。
日本人初の男性シャンソン歌手にして、カルト俳優。この映画を観るまで全く知らなかったのだが、ユーチューブで歌っている姿を拝聴すると、これは凄い。素晴らしい。


他にも、『枯葉』や『セ・シ・ボン』、『モンマルトルの丘』などなど、どれも聴き入ってしまう。越路吹雪美輪明宏を足して2で割ったような感じ。
2年程前に、BSで特集をやっていたらしい。
そんな、素敵な高英男が、こんなことをやっているのだ・・・。

他にもサイトをいろいろ覗くと、どうやら中原淳一と、穏当ならざる関係にあったとか。つい先日『花つみ日記』葦原邦子中原淳一の関係を知ったばかりなのに、『吸血鬼ゴケミドロ』で新たな事実(?)がわかるとは、何という巡り合わせだろう。
そして、高英男は、つい昨年の5月に、90歳で亡くなっていたのだった・・・。
おそらく、その歌う姿も、また、亡くなったという情報も、自分の目や耳には届いていたのだろう。しかし、興味がなかったばっかりに、そのまま通り過ぎていたのだ。(情報とは、いつでも受け手の感度の問題である。)
・・・知るのが遅過ぎた。
決定版 高英男

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それいゆ~愛しのシャンソン名曲集

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それにしても、ネットを見る限り、高英男は、「偉大なシャンソン歌手」としてのものと、「ゴケミドロのカルト俳優」とに、完全に二分している。当然といえば当然だが、シャンソン歌手の方では、ゴケミドロは抹殺されているし、ゴケミドロのサイトの方は、シャンソン歌手の部分には関心を持っていない。
しかし、この交り合いそうにない二面性が、高英男の魅力のような気がする。
もっと高英男のことが知りたくなったが、あまり深入りすると泥沼に嵌りそうだ。とりあえずこの辺にしておこう。
シャンソン側のファンサイト