12月歌舞伎座 『忠臣蔵』通し 昼夜

kenboutei2013-12-15

2ヶ月連続の仮名手本忠臣蔵通し。先月と同じ場割で。
今月は幸四郎玉三郎染五郎海老蔵菊之助七之助獅童ら。世間的に知名度の高い役者が揃った分、今月の方が人気なのは、口上人形時の拍手と団体客の多さでわかる。(日曜日だったが、自分の席の後ろはズラリと団体客)
海老蔵が道行の勘平の他、初役で師直、平右衛門。玉三郎は道行と七段目のお軽。七之助が六段目のお軽と顔世。染五郎は五・六段目の勘平、若狭之助に石堂。菊之助の判官、獅童の定九郎。
先月同様、役の一貫性は無視した配役なので、通しなのに見取り狂言的印象を受けるのは否めなかった。
なかでは海老蔵の師直、平右衛門が印象に残る。
海老蔵の師直は、滑稽味があるのと、見得になった時が義太夫人形っぽく見えるところが面白い。呂の声がくぐもり、場内に響き渡らない弱点はあるものの、いい意味でユニークな師直であった。
刃傷の場で、邪魔になった文箱と手燭を思いっきり後ろに払いのけたのは、かなり乱暴。(先月の左団次も乱暴だったが、それ以上。)
平右衛門の方は、まず玉三郎のお軽と兄妹に見えたところが偉い。お軽と平右衛門とのやりとりは、最近は恋人同士に見えるようなコンビもあるのだが、そうならずに、一定の距離感があったのが良かった。これは玉三郎側との関係もあるのだろうが、見ていて気持ちよかった。
もう一つの海老・玉コンビの道行は、案外平凡。
しかし、玉三郎の美貌は衰えを見せず、美しいものであった。花道の引っ込みは、まさにお似合いのカップル。憂いある海老蔵の眼差しと、気品を保った玉三郎の美しさが目に焼き付いた。
権十郎の伴内が、初役だそうだが、良い出来。
菊之助の判官は、先月の親父の絶品を見てしまうと、色々と物足りなさを感じてしまうのは是非もない。終始控えめであまり顔の表情も変えないのは、判官としての気位や品格を意識してのものだと思うが、見ているとおとなしすぎて面白味に欠ける。他の役者みたいに表現過多になるよりはましだが、それにしてももう少しなんとかならないか。若手では随一の判官であるだけに。
染五郎の勘平は、全体的に地味で暗い印象。特に五段目は、動きもぎこちなく不調に思えた。六段目で持ち直したが、それほど感心はしなかった。
先月のと比べると、音羽屋型ともまた違う。刀身で髪をなおす手順は、染五郎の場合、刀を上に向け、自ら抜いていた。2ヶ月続けると、こういう違いもわかって、そこは面白かった。
相手となる七之助のお軽は、顔世同様、あまり印象に残らなかった。
吉弥のおかやが手強くて良い。
この場で千崎と不破が訪れる場面では、「取り込み中」で帰りかけずに、少し身体を動かしただけであった。
幸四郎の由良助は、刃傷・評議より茶屋場の方が幸四郎らしくて良かった。
太々神楽」などの台詞は幸四郎の場合、より音曲性のある言い回し。吉右衛門より柔らか味と芝居性があるのが特徴。
玉三郎のお軽は、海老蔵の平右衛門に対するのとはまた別で、座頭幸四郎と互角の芸格。かといって重々しくなるのではなく、お軽らしい華やかさを保っている。久しぶりに見たが、充実のお軽であった。
定九郎の獅童、顔が古風で雰囲気はあった。鮮やかな朱鞘がこの古怪さに似合っていた。

菊五郎吉右衛門の充実・重厚な先月に対し、今月は役者の華で見せた『忠臣蔵』であった。