2月歌舞伎座『忠臣蔵』通し

kenboutei2007-02-04

フリスク用意し、昼夜通し。
昼の部は物足りず、夜の部はまあまあ充実。
昼の部
大序は、信二郎の直義が、気品に溢れて良い出来。昼の部で一番。
富十郎の師直、人形振りで頭をぐっ、ぐっと動かすところに、役者振りの大きさ。人形から戻る最初の動きは、吉右衛門の若狭も面白いが、菊五郎の判官は、少しくたびれた印象。
三段目の刃傷。大序もそうだったが、吉右衛門の若狭之助は、立派過ぎ。花道から歩いてきた時、もう由良助が登場したのかとさえ思った。富十郎の師直は、台詞ははっきりとわかりやすいが、サラサラとしていて、義太夫味が薄い。本来、丸本物もうまいはずなのに、あえて現代調にしているところが、観客に媚びているようで悲しい。判官をいびる所は、もっと嫌らしく、ねばっこくやってほしかったが、そういうニンではないのだろう。
菊五郎の判官は、持ち役ではあるが、何となく精彩がなかった。
三段目から休みなく四段目に突入(長い!)。幸四郎の由良助は、平凡。判官の無念を受け止め、「委細」と言う場面は、少し大袈裟過ぎた。送り三重での引っ込みで、最後ヨタヨタと小走りになるのは、柄が小さく見えて良くないと感じた。まあいつもそうだが、幸四郎は泣き過ぎる。
全体に、大序から四段目までは、年々、実録風になってきているのではないか。どの役者も、台詞に義太夫味がまるで感じられなくなっている。昨年末の国立の『元禄忠臣蔵』とあんまり印象が変わらなくなってきているということは、本来憂うべきことだと思う。
追い出しの道行で、少し気が晴れる。梅玉の勘平と、時蔵のお軽。翫雀の鷺坂伴内の鳥尽くしの台詞が面白い。清元を聞きながら、時々眠りに落ちるのも、この場では気持ち良い贅沢。
夜の部
五段目。梅玉初役の定九郎。最初にぬっと出た時は凄みがあったが、雨に濡れた髪や袖を手で拭う仕種になると、本人の地が出て迫力不足。思ったより悪くはなかったが、ニンであるとも言い難い。
菊五郎の勘平は、完璧。花道で銃を担いで決まる様は、これぞ歌舞伎の早野勘平。菊五郎は、六段目より「二つ玉」の勘平が優れている。
六段目は全体に平凡。時蔵のお才と東蔵の源六の、共に初役コンビの息がまだ合っていない。お才もやっている東蔵が源六をやるのは凄いことで感心しきりだが、啖呵を切るような場面はまだ弱い。
玉三郎のお軽は、次の七段目に比べると、地味な分だけ精彩に欠く印象。(そういう役と言ってしまえばそれまでだが。)
菊五郎の勘平は、いつもより、周囲の演技に反応し過ぎたような気がした。着替えの時に、その理由を詳しく述べていたが、前からそうだったかな。
吉之丞のおかやが奮闘。
七段目。吉右衛門の由良助は思った程面白くなかったものの、仁左衛門の平右衛門と玉三郎のお軽の黄金コンビが、無類の面白さで、溜飲が下がった。入れ事が面白いのはもちろんだが、何としても敵討ちに加わりたいという平右衛門の思いと、いつか再び勘平と添いたいというお軽の思い、この二人のそれぞれの強い思いが、七段目を動かしていたのだということが、仁左衛門玉三郎の熱演で、痛い程伝わってきた。この二人の兄妹は、実は悲し過ぎる。
十一段目の討入りは、いい加減、止めたらどうか。(もっとも、この後九段目を続けられても、とても体力が持たないが。)
昼夜通じて、役者は揃っているのに、決定版とならなかったのは、残念。配役にもうひと工夫欲しかった。