『乱れる』

kenboutei2010-02-02

成瀬監督の『乱れる』を観る。神保町シアター高峰秀子特集。
戦争未亡人の高峰秀子に、義弟の加山雄三が思いを寄せる。
嫁ぎ先の家が、日用品も売っている酒屋だったり、登場人物が突然物語から姿を消してしまう(スーパーマーケットの進出で売り上げが減り、自殺してしまった地元小売店の店主、柳谷寛。)展開など、成瀬映画お馴染みのシチュエーションもあるが、もう一つの成瀬映画の特徴でもある「終わらない日常」を描いているのではなく、ある程度起伏のあるドラマとなっていたのは、脚本の松山善三によるところが大きいのだろうか。
ラストの温泉宿での劇的な展開は、成瀬的というより松山的で、成瀬だけの脚本だったら、その前の列車の場面で終わっていたような気がする。
もちろん、酒屋のスーパーマーケット化計画のため、一人身を引き北へ向かう列車に乗った高峰秀子を追い掛けてきた加山雄三に、「ここで降りましょう」と途中下車し、「私だって女よ」と言ってしまう高峰秀子の言動こそが、この映画の眼目ではあろうが、自分は、そこまで至らなくても、また、その後の衝撃的なラストなどがなくても、十分満足していたのであった。(逆に言うと、温泉宿の展開は、付け足し感が強い。)
加山雄三のどこまでもKYな演技も、考え出すと色々言いたいことはあるのだが、しかしながら、やはり最後の高峰秀子のアップの表情は、名映画のラスト・シーンとして、文句の付けようがない。
・・・気がつくと、成瀬映画も30本。ここ1年ちょっとで随分観たなあ。でも、これでも全作品(89本)のわずか三分の一だし、『めし』や『浮雲』などの有名どころはまだなので、とても「成瀬を観ている」などとは言えないが。

乱れる [DVD]

乱れる [DVD]