『東海道四谷怪談』

kenboutei2009-02-22

昨日観た映画。木挽町へ行く前に、六本木にて。
中川信夫の『東海道四谷怪談』。
オープニングは、中村座の定式幕を背景に、黒衣が面灯りの蠟燭を差し出す。タイトルの『東海道四谷怪談』の文字が、蠟燭に照らされると、その部分だけ揺らめく。ツケの音と女義太夫の語りがそこにかぶさる。
四谷怪談』は、南北の純歌舞伎なので、義太夫狂言ではないし、そもそも歌舞伎の竹本に女義が出ることもないのだが、まあ、そこは映画としての、「らしい」雰囲気があれば良し、ということなのだろう。
裏筋の忠臣蔵の世界は、一切省略。本筋の方も、設定を微妙に変えているので(与茂七が崖から突き落とされるが生き残って、伊右衛門に敵討ちしたり、お岩と一緒に戸板に打ちつけられるのが、宅悦だったりする。)、歌舞伎と比べると肩透かしを喰らう。
お岩の怖さより、田圃の苗が風に揺れ、畦道を馬に乗った花嫁とその一行が通って行く、その土着的な風景描写こそが、『地獄』における、蒸気機関車の疾走や「天上園」の情景と共通する、中川監督独特の映像感覚である。
ラストシーンで、お岩が昇天していくのも、『地獄』のラストの三ツ矢歌子に通じるイメージ。
「藤八、五文、奇妙」の薬売りの口上と動きは、ゆったりしたテンポ。風俗考証としては、こっちの方が歌舞伎よりリアリティがあって、興味深かった。
天知茂伊右衛門。お岩への愛が最後まで残っているのは、色悪としては未練がましいが、ニヒルな感じは出ていた。(時々、平幹二郎と混同してしまった。)
お岩は、若杉嘉津子。直助権兵衛の江見俊太郎ともども、あまり馴染みのない俳優。江見俊太郎の直助権兵衛の方は、歌舞伎とは違った形でよく活躍する。
宅悦の大友純は、何度か観たことがある顔だ。
お梅に池内淳子。思っていたより地味な印象。
観客は自分を入れても10人に満たなかった。
一階のロビーでは、報道スタッフが集まっており、どうやら別の映画で主演俳優が舞台挨拶をするらしい。
そんな世界とは全く無縁の、新東宝映画特集なのであった。

東海道四谷怪談 [DVD]

東海道四谷怪談 [DVD]