二月歌舞伎座・夜の部

kenboutei2009-02-21

『蘭平物狂』三津五郎の蘭平。一幕目の「行平館」は、ほとんど寝ていた。「奥庭」の立ち廻り、ゆったりとしたテンポで進むのが、味わいがあって良い。三津五郎の動きも鷹揚で、大きい。どこを切り取っても絵になる。歌舞伎の一般的なイメージにぴたりと合った情景が続いていく。
しかし、それにしても長い。二幕合わせて、1時間以内に納まるようにならないかな。昭和28年に松緑が再構成した狂言だが、賞味期限としては限界にきているように思う。
福助のおりく、橋之助の与茂作、翫雀の行平。繁蔵は宜生。
翫雀の行平は、紫の病鉢巻が不自然なほど、立派な体型。
橋之助が、最後に繁蔵に向かって話す時、「よしお」と呼んでいた。(楽屋落ちか間違えたのかは、定かではない。)
幕開きの、菊十郎、寿治郎、三津右衛門の奴の会話がとても良かった。
勧進帳吉右衛門の弁慶、菊五郎の富樫、梅玉義経。四天王は、染五郎松緑菊之助段四郎
吉右衛門の弁慶は、四年振り。実に悠然とした立派な弁慶。台詞、柄ともに申し分ない。前回以上に良かった。特に、不動の見得、元禄の見得、石投げの見得、それぞれ、きっちりと決まるのが素晴らしかった。この見得一つだけでも、観て満足できるものであった。
富樫の菊五郎は、少し老練な感じ。弁慶に対して、最初から全てを飲み込んでいるような対応。これはこれで味わいがある。引っ込みの時の「泣き」も、控え目だったのが良い。
梅玉義経も、自分が観た中では今回が一番良かった。特に最初の出に、陸奥へ逃れて行こうとしている緊張感があった。これは、四天王合わせた花道の出全体に言えることで、今日のこの義経一行は、関所を何とかして通り抜けようとする、悲壮感が漂っていた。そう思わせたのは、梅玉の最初の花道での所作と台詞の良さのためである。
ただ、判官御手は、ちょっと動き過ぎのような気がした。
四天王含めた配役も安定(菊之助駿河次郎を観られるなんて思わなかった)、ここ数年では一番充実した、大人の『勧進帳』であった。
三人吉三玉三郎のお孃、染五郎のお坊、松緑の和尚で、『大川端』のみの追い出し狂言。どうしてこういう演目と配役になるのか、意図は不明。
玉三郎のお孃を観るのは、平成16年2月の通し以来。その時の印象は良かったのだが、今日は今ひとつ。黙阿弥の七五調の台詞をあえて崩し、どこかせっぱ詰まったような口調にしているのは、他の二人の吉三が若手であることを意識しての工夫だったのかもしれないが、染五郎松緑も、七五調をしっかり守って語っていたため(まあ、黙阿弥の台詞はその方がやりやすいわけだし)、玉三郎一人だけ破調となり、聴く方としては、とても居心地が悪かった。前回はそんなことなかったと思うのだが。
「月も朧に」の台詞の時、杭に片足をかけようとして踏み外し、もう一度やり直していたのは、ご愛嬌。
 
・・・帰宅後、又五郎の訃報を知る。当代菊吉による『勧進帳』は、ニ長町時代を知っている唯一の役者への、別れの挨拶だったのか。