『海底軍艦』

kenboutei2009-02-06

会社帰り、京橋フィルムセンターで、『海底軍艦』。
もう20年以上前、札幌の狸小路の映画館(東宝プラザかプラザ2)での東宝映画特集で観て以来だと思う。
監督本多猪四郎、脚本関沢新一、特撮円谷英二、音楽伊福部昭。昭和38年公開。
平田昭彦の運転するタクシーが海に突っ込むオープニングから、関沢新一の脚本は快調に進んで行くのだが、後半はちょっとダレた。
東宝特撮映画の中では割合人気の一本だが、完成度としては今ひとつの感。海底軍艦の乗組員が甲板から艦内に入る場面を、セットではなくブルーバックの合成で撮影しているなど、金をかけているのかいないのか、意図が不明の特撮もあったりする。
東京都心が一気に地盤沈下する場面や、牢屋の窓を開けるとマンダの顔がぬっと出てくるところ、ラストの燃え上がる海洋の特撮などには、迫力があった。
ただ、そんなことよりも、一番気になったのは、今日の観客の反応であった。
日本の敗戦後も密かに海底軍艦の建設に邁進し、日本軍の再起を図ろうとする、神宮司艦長役の田崎潤が話す度に、爆笑とまではいかないが、失笑以上の笑いが起こるのである。
元海軍の上司役の上原謙が、「(戦後20年経ち)世界は変わったんだ」と諭しても、「だったら、海底軍艦でもう一度変えてみせます」と返す田崎潤
ここで笑いが起きる。
一本調子な田崎潤の話し方による部分もあるにはせよ、公開当時、観客は決して笑う事などなかっただろう。
すでに戦後60年以上が経過し(映画公開からでも45年経っている)、日本人のメンタリティーも、大きく変わったのである。
おそらく公開時の観客のスタンスは、神宮司艦長の好戦的で時代錯誤な態度に対する、上原謙高島忠夫(神宮司に「戦争気違い」と非難したりする)の反応と同じだったのだと思う。彼らは、まだ真面目に神宮司の言葉に対していた。だから田崎潤上原謙の会話は、映画の中でもまだ現実のものとして成立していたのである。
しかし、今の観客は、もはや神宮司の言葉を、まともに受け止めようとはしない。「映画とはいえ、ありえねーだろ」的な感覚で観ているのである。
日本が再軍備して再び世界に戦いを挑むこと。これを特撮モノながら真面目に議論している映画を、冷ややかに笑って受け流す観客。
映画公開後45年も経つと、日本人もここまで変わるのだということが、映画そのものよりも、よっぽど興味深いものであった。
本多猪四郎監督が、生きていたなら、なんと思うだろうか。
田崎潤の娘役の藤山陽子が、清楚な美しさ。

海底軍艦 [DVD]

海底軍艦 [DVD]