『惜春鳥』

kenboutei2010-03-02

神保町シアター木下恵介監督の『惜春鳥』を観る。昭和34年の松竹映画。
会津若松へ向かう列車の中で、川津祐介佐田啓二が出会う場面から始まる。
ともに東京からの帰省のようだが、お互いに暗い過去を持っている。
川津祐介は今では地元に身寄りはなく、高校の同級生だった小坂一也の家が経営する旅館に泊めてもらう。
旅館の一室で、久しぶりの再会を喜ぶ二人。小坂の手を強く握りしめる川津。そして次の場面で二人は裸で風呂場に寝そべっている。
見方によっては、ボーイズ・ラブ風で、この後も至るところに萌えポイントは散りばめられているが、もちろん、それを意識した映画ではない(はず)。
二人の他に、津川雅彦石浜朗、山本豊三が同級生で、この5人は親友だったらしい。高校時代を思い出しながら、飯盛山で白虎隊の剣舞をしたりする。
一方、佐田啓二の方は、実は津川雅彦の叔父役で、かつて芸者の有馬稲子と東京に駆け落ちしたのだが、借金を抱える有馬稲子は女将に連れ戻され、二人の仲も終わる。それから時が過ぎ、傷心のまま職も失い、肺病にもなってしまった佐田は、地元に戻って津川家で一日中寝ているだけの日々を過ごす。
津川雅彦は妾の子で、妾は藤間紫。父親は伴淳三郎。藤間は寝てばかりいる佐田を疎ましく思っている。
バンジュンは質屋で成功しているらしく、妾の子である津川雅彦も金には不自由していない。川津祐介が帰郷した祝いに、小坂一也の旅館で芸者も呼んでドンチャン騒ぎ。その芸者の一人に有馬稲子がいて、白虎隊の舞踊を披露する。
本宅に実の子のいないバンジュンは、十朱幸代を養女とし、婿探しをしている。本当は実の子の津川雅彦と一緒にさせたいのだが、それは本妻が許さない。結局今は没落しているが士族の家系である石浜朗を見合相手に選ぶ。
実はお互いに愛し合っている津川と十朱。自らの立場を知る津川は身を引こうとするが、十朱は不服である。それらを全て承知の石浜は、打算ずくで結婚しようとする。
と、そんな話が展開している間も、だらだらと長居をしている川津祐介。東京の大学で女性問題を起こし、失意の帰郷ということになっていたのだが、実は詐欺師で逃亡中なのであった。人の良い山本豊三や小坂一也から借金を重ねる行動で、だんだん正体がバレていく。
小坂が部屋を空けている隙に、机の上の腕時計を盗む。戻ってきた小坂が異変に気付き、疑いの目を向けられた時に見せる川津の知らばっくれた不敵な表情は、いかにも姑息な盗人の態度であり、その屈折感も含めて、川津祐介独特の演技で感心した。
犯人とわかっても、何とか逃亡させようとする小坂だったが、石浜が警察に通報。川津はあえなく御用となる。その裏切りに山本が怒って石浜に決闘を申し込む。
それと平行して、佐田と有馬は結局再び落ち合い、心中してしまう。死の直前、月夜の下で、白虎隊の詩吟(?)を佐田啓二が詠じ、有馬稲子が舞う。このシーンが一番美しい。
家で寝てばかりいた佐田に対して、もう一度有馬と会うことを勧めていた津川雅彦は、この心中を機に、一度は諦めた十朱との恋に、正面から向かうことを決意するのであった。
・・・簡単な感想で済まそうと思っていたのに、長々と筋を記してしまった。
一言で言えば、松竹の真面目な青春群像。この延長線上に、松竹ヌーベルバーグがあるのだと思った。
有馬稲子の白虎隊の舞いが二度もあったのは驚いたが、確かに、二度見せるだけの立派なものであった。(少なくとも先日の岡田茉莉子の道成寺よりは、しっかり踊れていた。)
山本豊三の父親役の宮口精二が、出演はわずかだが、味のある芝居。石浜朗の父親は笠智衆
川津祐介は東京で会津の訛りを馬鹿にされたと言い、同級生たちも同情するのだが、映画の中ではみんなそれほど訛ってはおらず、一番しっかり(?)訛っていたのは伴淳三郎だけであった。
藤間紫は若干エキセントリックな演技で、少しイメージが変わった。
津川雅彦と十朱幸代は、「第一回作品」とクレジットされていた。(十朱幸代は、デビューの時からあんな喋り方だったんだなあ。)
それにしても、白虎隊の歌は、これをカラオケの持ち歌にしていた元上司をどうしても思い出し、雑念が入ってしまった。
・・・結局、「白虎隊BL映画」として記憶してしまいそうだ。(違うんだけどね。)

木下惠介 DVD-BOX 第4集

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