国立劇場『京乱噂鉤爪』

kenboutei2009-10-11

10月国立劇場昨年の乱歩歌舞伎・「人間豹」の続編。サブタイトルも『人間豹の最期』。
案外の人気だったとはいえ、続編を作る方も作る方だが、それを観る方も観る方ではある。(自分のことだが。)
「俺は誰の指図も受けねえ、やりたいことをやるんだあ」と言いながら、何がしたいのか、行動原理がさっぱりわからない染五郎と、そんなデタラメな存在が相手でも、何かしらの意味を求め、最後はやはり自分が幕をきらずにはいられない幸四郎。この親子の行く末を案じながら観ていると、割合と退屈しなくて済むかも。(それでも結構ウトウトしたが。)
面白かったのは、染五郎の筋交いの宙乗り。サーカスみたいにくるくる回転しながら飛んで行くのだが、ふと花道の方を振り返ると、去っていく染五郎の影が、国立劇場の殺風景なコンクリートの壁に、大きく映し出されていた。暗闇の中から浮かび上がってくる更に暗い影は、染五郎が動く度に、揺れながら大きくなっていくので、結構な迫力。まさにこの瞬間だけは、江戸川乱歩の世界になっていた。(昔、少年を追う男の影がビルの谷間に延びていくという描写を、少年探偵団シリーズの一巻で読んだことを思い出した。)
陰陽師梅玉が大活躍。ママゴトみたいな芝居の中で、一人悠然とした演技で魅了する。不思議な妖術(見えない光線?)で、染五郎幸四郎も自由に操るのだ。凄い。今日の主役は間違いなく梅玉であった。
染五郎二役の大子(「だいこ」と呼ぶそうな。「でーこ」の洒落だとしたら、自虐的過ぎてあまり笑えないのだが。)は、大柄な女で、イヤでも同じ脚本家の「大力茶屋」を思い出してしまった。
錦弥、錦成の番頭と丁稚のエピソードは、あまりにもお涙頂戴を狙ったあざとさが先立つ。(二人とも熱演で良かったけれど。)
翫雀が公家の姿で出てくると、どうしても『十二夜』を思い出してしまう。(突然、「ボク」と言いそうな感じ)
人形役の梅丸が可愛かった。
芝居が終わり、間を置かずにカーテンコール。作り手(演出者)の意識としては、明らかに歌舞伎ではなく商業演劇であったことが、ここではっきりとわかる。国立劇場が、帝国劇場になった瞬間でもあった。(そこに梅玉も出てきた時は、ちょっと嬉しかったが。)
竹本の東太夫が、あまりにも小沢一郎に似ていたので、ついニヤついてしまった。