十月歌舞伎座夜の部

kenboutei2009-10-18

夜の部は、『千本桜』の半通し。
『渡海屋・大物浦』吉右衛門の知盛、玉三郎典侍の局。「渡海屋」は、吉右衛門玉三郎も、一通りといった感じ。吉右衛門は、銀平での出は、案外軽めの印象を受けた。知盛となってからの白装束は立派。舞いも良かった。玉三郎初役のお柳は、世話女房としては弱い。しゃべりも面白くなかった。
「大物浦」は、ともに立派で見応えがあった。吉右衛門の知盛は、血染めの容姿の古怪な大きさ、悠然かつ堂々たる動き、台詞の重厚さと、圧倒的な存在感と説得力で迫ってきた。源平の戦いを語る時、「生き代わり、死に代わり」のところで、長刀を持つ左手を、一瞬、ぶらりと幽霊手のように下げる仕種をするのが、自分は初めて観る型で(今まで気づかなかったのかもしれないが)、とても面白いと思った。自分が過去に観た中では、仁左衛門の知盛も良かったが、今回の吉右衛門のは、それと並ぶ満足感があった。
玉三郎も、典侍の局が本格。何と言っても、帝の乳母としての気品と風格がある。あの鬘と十二単が実に良く似合う。安徳帝とのやり取りが、いつもより丁寧に時間をかけて演じていたが、ちっとも飽きなかった。
義経富十郎安徳帝が話している時は常に下を向いて拝聴するなど、役としての行儀が良い。「渡海屋」で最初に花道へ引っ込む時、七三で止まって手にした笠を少し動かすだけで、荒天の風がそこに吹いてきたように見えた。
段四郎の弁慶も、さすがにこの時期は台詞も入っており、立派な弁慶であった。富十郎吉右衛門と並んでも、決して見劣りしない。(一度でいいから、『勧進帳』の弁慶が観たい。)
吉野山菊五郎の忠信、菊之助の静。この親子には、どちらも中性的でメルヘンチックな雰囲気があるので、「吉野山」のような一幕は「三千歳直侍」のようなベタな色恋模様の芝居よりも、ぴったりフィットしているような気がする。
菊之助の花道の出は、あっさりし過ぎ。吉野の山桜の情景が、その歩みの中では浮かんでこなかった。
女雛男雛となる手前で、菊之助が扇を使いながら忠信の菊五郎に目配せするところは素敵であった。
二人で花道向こうを見て、継信の死を嘆くところも、とても良かった。
逸見藤太に松緑
『四の切』引き続き菊五郎の忠信、菊之助の静に、義経時蔵。場内の反応が結構良かったのは、菊五郎の芝居がわかりやすかったためだろう。
本物の佐藤忠信として引っ込む時の形が、いかにも古典歌舞伎の風味があった。