『暖簾』

kenboutei2009-10-20

池袋の新文芸座での山崎豊子特集から、川島雄三監督の『暖簾』を観る。昭和33年作。
朝靄の中、堅牢な橋が映し出され、そこを馬が駆け抜けていく。同じ橋の上に今度は商人風の男がひょこひょこと歩き、その後ろから小僧が追いてくる。商人は、小僧を巻こうとするが、小僧は必死に追い掛ける。商人は根負けし、小僧を自分の老舗の昆布屋の丁稚にする。
商人は中村鴈治郎、小僧はこの時点では子役だが、すぐに森繁久彌となる。
テンポ良いオープニングそのままに、鴈治郎から暖簾分けされた森繁久彌が、好きだった乙羽信子をあきらめ、本家から押し付けられた山田五十鈴と結婚し、台風での被害や戦争を乗り越え、戦後は息子が事業を拡大して東京進出していくという具合に、トントン拍子に話が進む、気持ちの良い昆布屋出世物語。
菊田一夫が舞台化したものの映画化とのことで、ある意味典型的な商人一代記。舞台転換よろしく、暖簾分けから、結婚、事業拡大、台風、戦争、息子による再建と、時代の流れに応じて物語は展開していくが、映画としては、一つ一つのエピソードに深みが足りなかったような気がする。
森繁久彌の達者な演技が見もの。台風で昆布の加工場が被災し、その対応でずぶ濡れになって帰ってきた後、できの悪い次男(これは後に森繁自身が二役で演じることになる。)が顔拭きに雑巾を持ってくるのを叱りつける突っ込み具合などは、コメディアンの演技である。せかせかと歩いている途中で、突然勢い良く転んでしまう、その「身の軽さ」も、舞台で鍛錬されたものだろう。
後半、森繁の息子(出来の悪い次男)役も森繁が演じ、同一画面で台詞を言い合う映画的趣向は、川島雄三っぽい。ただ、この二役は、最初かなり戸惑った。
娘役(次男の妹)の可愛い女性を、ずっとクレジットに出ていた扇千景だと思っていたのだが、彼女は別の役で後から登場したので(さすがに二役ではなかった。)、一体誰だろうと考え直したのだが、最後までわからなかった。後で調べてみると、環三千世というらしい。現代的な雰囲気があってとても良かったのだが、ネット上でもあまり出ていない女優だ。(宝塚出身らしい。)
扇千景の方も、出番は少ないが、とても綺麗で、後に参議院議長になるなど信じられない。(鴈治郎の息子の当代藤十郎と結婚したのは、この年のようである。)
山田五十鈴乙羽信子の他、浪花千栄子山茶花究など、芸達者な役者も堪能。
昆布屋の話で、久しぶりにかつて仕事で勉強した「昆布ロード」のことを思い出した。昆布のセリの場面も実に興味深かった。
菊田一夫の舞台を、一度観てみたかったなあ。

暖簾 [DVD]

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