正月歌舞伎座 夜の部

kenboutei2009-01-10

『壽曽我対面』全体的に低調。
幸四郎初役の工藤は、見た目は立派だが、声量のなさが、こういう役では特に目立つ。
吉右衛門の五郎、菊五郎の十郎。揚幕内からの最初の発声が、二人バラバラで、聞き取りにくかった。吉右衛門は、前髪の若々しさを意識した身の動き、甲の声。動きの方は、股をぐっと割っての足さばきなどは見事であったが、声の方は少ししゃがれ気味。(風邪?)
菊五郎の十郎は、その佇まいで見せる。雰囲気のある十郎で良かった。
菊之助化粧坂少将だったが、最初は誰だかわからなかった。昼の部でも同じように感じ、その時は顔が少し浮腫んだと思ったのだが、実は化粧に工夫がなく、何の特徴もないのっぺらした表情になっていたのが、一因なのだろう。
芝雀の大磯の虎。  
『春興鏡獅子』勘三郎の「鏡獅子」。今日は、これまでの他の役者を含めた鏡獅子の中でも、最も素晴らしい舞台だったと思う。特に前シテの弥生は、本当に惚れ惚れしながら観ていた。安定した腰とぶれない軸に支えられて、自由自在に動き回る腕と手の動きは、これまで自分が経験したことがないほど、流麗で美しかった。やっぱり『鏡獅子』は勘三郎のものであることが、納得できるものであった。
動きが止って形になる時が、どこをとってもきちっと決まっていて、まるで上村松園描く女性の舞を連続して観ているようであった。
今回特に思ったのは、二枚扇の部分が終わって、長唄囃子の曲調が変わったところで、勘三郎の弥生も、まだ獅子頭を持つ前ではあるが、だんだんと獅子の精に取り憑かれて行くような雰囲気になっていくのが、伝わって来たことである。例えば、下手に行って、扇をかざすところなどに、そういう気配を感じた。これまで、前シテの弥生と後シテの獅子の精は、それぞれ別個の踊りとして観ていたような感があったのだが、実はそうではなく、獅子頭を手にする前の弥生の段階で、後シテへ繋がるものがあるのだと、気がついた。(自分だけの勝手な解釈だが。)
そして後シテも気合い十分、かといって、決して毛振りを廻し過ぎたりはしない、格調を保った踊りであった。
胡蝶の二人が千之助と玉太郎。共に自分のお気に入り。スリムで器用な千之助と、もっさりと不器用な玉太郎の対比も面白い。昨年11月の『寺子屋』でも思ったことだが、今後もコンビでどんどん出て来て欲しい。
『鰯賣戀曳網』勘三郎玉三郎。うとうとしながら観ていたが、場内の笑いで、正月らしいほのぼのとした雰囲気となっているのはよくわかり、気持ちは良かった。
 
幕間が25分と35分で合計1時間。終演が8時22分なので、正味3時間足らず。コストパフォーマンスは決して良くないが、勘三郎の鏡獅子だけでも、充分納得できるので、まあいいか。(でも正月の特別料金設定に関してはあまり納得できないが。)