五月歌舞伎座・夜の部

kenboutei2008-05-06

團菊祭、夜の部。
『青砥稿花紅彩画』白波五人男の通し。團十郎の駄右衛門、菊五郎の弁天、左團次の南郷、三津五郎の忠信、時蔵の赤星。
序幕からだんまりにかけ、5人が揃うまでが面白かった。特にだんまりは、どこをとっても絵になる。それぞれの役者から滲み出る大きさ、充実度が、そのまま舞台に表れていた。今日の歌舞伎の一つの水準であろう。
松屋以降も、役者で観る分には全く面白い。豪華絢爛な歌舞伎を観るには最適のテキストではあった。
ただ、野暮を承知で書くと、終わって何にも残らないのが、この芝居である。普通、通し狂言であれば、見取り狂言では気がつかなかった筋の流れや、登場人物の事情などについて、新たな発見をすることが少なくないのだが、この芝居に限っては、元々全体が見取り狂言的、すなわちこれまでの歌舞伎のいいとこ取りのようなものなので、歌舞伎レビューを観ているような感覚にしかならない。「綺麗、楽しい」だけで終わってしまう。(それが悪いわけではないが)
かろうじて黙阿弥が描いている、駄右衛門や弁天と浜松屋との血縁関係も、あまりのご都合主義に、その種明しの場が、今ではギャグにしかなっていない。観客は爆笑するし、演じている菊五郎も、それを前提に芝居をしている始末。
この芝居については、通しで観ることによって、歌舞伎のエッセンスは味わえるものの、例えば弁天小僧菊之助の持つ、両性具有の妖しさなどは、「浜松屋」一場だけを観る時よりも、逆に薄れてしまう感じがしたのである。
コクーン歌舞伎で、串田和美が取り上げる黙阿弥作品が『三人吉三』であって、決してこの芝居ではないのも、わかるような気がした。
田之助が局・柵で健在、富十郎が青砥左衛門で付き合う。海老蔵の宗之助。
梅枝の千寿姫が、菊五郎らを相手に奮闘。梅枝は、いつの間にかうまくなったなあ。
『三升猿曲舞』松緑昨年9月の歌舞伎座特別舞踊公演で好評だったので、本興行にかかることとなったそうだが、自分はあんまり印象に残っていない。今日もそんなに面白いとは感じなかった。ただ、松緑本人は随分楽しそうに、満足気に踊っていた。