10月新橋・夜の部 幸四郎の弁慶

kenboutei2012-10-20

夜の部。4時に開演。7時30分で終了。幕間40分。観劇時間は正味3時間を切る。
『御所五郎蔵』
松緑の五郎蔵、梅玉の土右衛門。珍しい組み合わせ。
松緑は、最初の出の時、誰なのかわからない程、吊り上げた眉ときつめの目元。そのせいか童顔が大人びて見えた。花道七三で止まり、刀に手をかける形などは、まだぎこちない。また黙阿弥の台詞廻しが難な感じで、語尾を一本調子に伸ばす。七五調の心地良さをうまく表現しきれてないもどかしさ。ただ、最後の引っ込みは雰囲気があって見事。自分が観てきた松緑のキャリアの中では名場面に入るだろう。
梅玉の土右衛門はニンにない役だと思うのだが、それでも破綻なく演じきってしまうのは立派。昼の部の甘輝同様、力感が出てきたのも特筆すべきことだと思う。突然感情を発露するような場面は、冷静さが身上の梅玉には難しいところではあったが、今になって役の幅が広がってきているのは、頼もしいことでもある。
芝雀の皐月は、傾城姿に貫禄。昼の部よりずっと良かった。
珍しく「五郎蔵内腹切」が出る。芝雀の胡弓が聴けたのも嬉しい。
眠くならずに観ることできたが、感情移入しずらい芝居であることには変わりなかった。だからこそ、役者の持ち味が勝負の芝居なのであろう。
勧進帳
夜の部は、幸四郎が弁慶、團十郎の富樫。藤十郎は昼に続いて義経。(当初、昼夜どちらかは染五郎義経だったが、怪我で休演となった。)
昼の部に比べると、完成度は高い。しかし、高水準の『勧進帳』かというとそうではない。あくまでも昼との比較での話。
その中で、藤十郎義経だけは一級品。台詞に力感と気品がある。花道で一瞬台詞の出だしに詰まったが、隣の友右衛門がフォロー。判官御手では、手の半分以上を隠し、指先しか見せない。しかし、そのわずかな指の白色が美しい。引っ込みは、花道付け際で一瞬富樫を見た後、両手の位置を少しだけ動かして姿勢を正し、そのまま一直線に走り去る。富樫への思い、そして早くこの場を去らねばという思い、そうした心境をその挙動でさりげなく表していたのが、強く印象に残った。
團十郎の富樫。最初の名乗りはあまりにひどい。甲の声の鼻へのかかり具合がいつも以上。声も枯れ気味。しかし受けの芝居は立派。義経打擲でも、幸四郎のようにビックリしない。やはり團十郎は弁慶より富樫にニンがあると思った。
幸四郎の弁慶は、案外出来が良かった。いつもより感情を抑制。声の良さもあって、安定した弁慶。しかし、番卒に酒をすすめられる場面で、杯を指して「小さい」とはっきり聞こえるように言っていたので、びっくりした。こんな弁慶は初めて観た。
不動の見得で腰を微妙に振ってから(よっこいしょという感じ?)きまるのは、とても爺臭い。顔を振って、口をブルブルさせるブルドック発声も相変らず。
とはいえ、幸四郎團十郎藤十郎の三人のバランスは良く、考えてみるとこれは大歌舞伎。しかし、あまりそんな気にならないのは、一体何故なのだろうか。
金太郎の太刀持ち。重いのか、太刀は終始持たずに置いていた。