10月新橋・昼の部 團十郎の弁慶

kenboutei2012-10-14

10月の新橋演舞場は、七代目幸四郎「追遠」興行として、團十郎幸四郎が昼夜でそれぞれ弁慶・富樫を演じるという、風変わりな企画。七代目幸四郎ネタ(?)は、一昨年の日生劇場でも行われ、ここでも『勧進帳』が出ていたので、二番煎じの印象が強い。また、一日替わりの弁慶は、当代団・幸の親世代もやっているが、昼・夜での役替わりというのは、かなり珍しいのではないだろうか。
今日は、昼の部を観る。
国性爺合戦
松緑の和藤内。隈取りはまずまずだが、声が難。「南無三、紅が流れた」は、絶叫しすぎ、また、その後の台詞の抑揚がおかしい。
梅玉の甘輝は、さすがの風格。関羽の見得も立派で驚いた。以前国立で観た時にはなかった力感がある。
芝雀の錦祥女は平凡。秀太郎の母親が義太夫味で、手強い。
勧進帳
團十郎の弁慶、幸四郎の富樫、藤十郎義経
ひどい『勧進帳』だった。
幸四郎の富樫は、最初の名乗りから、「鎌倉殿」の発音が変。他にも独特の幸四郎節で歌い上げるので、閉口。山伏問答では、弁慶の答えを首を傾げて聞き、時にもっともだ、と分別くさく頷いたりしている。義経打擲になると、金剛杖で義経を打つ弁慶に対し「ああ、そんなことまでして」と大げさに驚き、「もうやめてくれ」といった悲しい表情をする。こんな富樫は初めてだ。
一方、團十郎の弁慶も、幸四郎につられてか、いつも以上にドラマチックに演じる。
勧進帳読み上げで富樫に覗かれる寸前の産字の「あ〜、あ〜、あ〜」の抑揚が極端で、なんと客席から笑いが起きた。これも初めての体験。そして覗かれて気がついた時の「あっ!」の極端さ。こんな下品な弁慶富樫はない。もうイヤになってしまった。
延年の舞では、團十郎、ほとんど踊りになっていない。ただ動いているだけ。そして、四天王に帰れと促すわかりやすすぎる扇の使い方で、また観客の笑いを誘っていた。
ようやく引っ込みに到達すると、既にバテバテで、口が開きっぱなし。團十郎の体調のことを考えると気の毒といえば気の毒だが、これが七代目幸四郎追遠の舞台だと思うと悲しくもなる。
義経藤十郎。登場時の花道で杖をつきながら歩いてきて、一回転する時も杖を引きずる。口元が常にモゴモゴと動いているのも気になった。引っ込みは、笠に手をかけず、そのまま走り去る。年代物の義経ではあるが、感動するまでには至らなかった。
長唄の巳紗鳳は、高音が苦しい。
全体的に、老いを感じる『勧進帳』。