8月新橋・昼の部 福助・海老蔵・愛之助『桜姫』

kenboutei2012-08-19

昼の部は桜姫東文章福助の桜姫、海老蔵権助愛之助の清玄。
発端の「江の島稚児ヶ淵」、福助の白菊丸は前髪だが老けが目立った。いつものように福助はいちいち顔の表情を動かすので、なおさら皺が浮き立って見映えが悪かった。続く「新清水」は、桜姫に早替わりとなるせいか、息切れして胸が揺れ動き、落ち着かない。
愛之助の清玄は、声が朗々として良かった。桜姫の出家のための読経が耳に気持ち良く響いて感心。海老蔵権助役を取られた形だが、愛之助の二役でも良かった気がする。(逆に海老蔵が清玄を演じた場合、多分夜の部の『伊達の十役』の各役のように表面的で浮ついたものになっていただろうことが容易に想像できるので、二役分けるのなら、今回の配役で結果的には良かったのかもしれない。)
「桜谷草庵」で、ようやく福助の桜姫は美しくなる。そして海老蔵権助。これはニンであり、立派。声も変でない。
権助の腕の釣鐘の彫り物を見て驚く桜姫。ここからの福助の桜姫は、一種のニンフォマニアであった。同時に、海老蔵権助も同類。この二人はセックスで結びついている。そこが、玉三郎仁左衛門(孝夫)とは全く異なる、福助海老蔵コンビの特徴。この一種の猥雑感が最後まで続くのだが、南北の描こうとした世界は、もともとこういう卑俗さがあったのではないかという気がして、自分は、この二人の関係が嫌いではなかった。福助股間に乗せた海老蔵の大きな足の、指をピンと反らせた形は、まるでペニスそのものであった。
何故か「稲瀬川の場」は省略。
「三囲」のだんまりは、福助愛之助が共に美しい絵になっていて、良かった。
「岩淵庵室」。萬次郎の長浦、市蔵の残月が達者な芝居。愛之助の清玄は、ややコミカルに傾く。
権助住家」での福助海老蔵の布団のツーショットも、やはりリアルなエロチシズムである。結局、この二人の役者の欠点だといつも思っていた、リアルに演じようとして品がなくなり俗っぽくなる役作りが、この芝居では良い方向に働いたということなのだろうか。まるで地方の不良カップルみたいなのが、南北の卑俗な世界に合っていたように思えたのだった。(南北の世界はそういうものではない、と怒られそうだが。)
歌江が端女で出演。まだ動けて安堵。
亀蔵の入間悪五郎も良い。
児太郎の松若、何とか破綻なく演じきる。
他に、右近、笑也、弘太郎。
午後3時前には終了。こんなに早く終わるなら、「稲瀬川」を出す時間はあったはずだが。