八月新橋夜の部 海老蔵の『伊達の十役』

kenboutei2012-08-11

前回観てからそんなに経っていないような気もする、海老蔵の『伊達の十役』。再演するのはそれだけ客の入りが見込めるからなのだろうが、何度も観るような芝居でもなく、海老蔵にはもっと他の演目に挑戦してほしかった。
早替わりは上達。そのスピードに磨きがかかった。しかし、早替わりの技術の上達に反比例するように、芝居はどんどんまずくなっていく。
特に、腰元・累の時の「かしこまりました〜」という台詞は、それをオチに使っているお笑い芸人のギャグにしか聞こえない程、不様な台詞廻しで、聞くに耐えないものであった。海老蔵は、この台詞を言う度に起こる観客からの笑い声をどう受け止めているのだろうか。
絹川与右衛門も、自分では猿之助(猿翁)の口調を真似ているつもりかもしれないが、わざとらしさが鼻につく。
頼兼も然り。これではバカ殿だ。
一方、良かったのは、意外にも政岡。(まあ、より少なく下手糞、といった程度だが。)飯炊きがなく、そのかわりに間者との絡みがつくのが面白かった。千松が殺される時の表情が変わり過ぎるのは良くなかった。
仁木弾正の凄みは、さすが。海老蔵の仁木の良さは、「床下」の凄みが「対決・刃傷」でも続くところ。ここは初役の時の良さがまだ生きていた。特に「対決」が面白く、集団に向かって猛然と突っ込むところなどは、破滅的生き方を信条とする(?)海老蔵らしくて好きだ。足を攻撃され、片足で型になるところも魅力的であった。
最後の勝元も、すっきりしていてまずまず。
土手の道哲は普通。
男之助の時、下手で宙づり機械のハプニングがあった模様。
良い役と悪い役、出来栄えにムラがある海老蔵の十役。特に、役を声色で演じ分けようとする小手先の発想を改めるべき。あまり器用でもないし、この手の芝居は、もう新猿之助に任せるのが良いかもしれない。
冒頭の口上挨拶で周囲を見回す動きが不思議であった。最後の「これぎり」の時も同様。
萬次郎の栄御前が良い。家橘が雀右衛門に似ていた。
寿猿の山名が健闘。
他に愛之助、右近、笑也、弘太郎。
満員かと思ったらさにあらず。空席も。
幕間におでん定食。