六月新橋演舞場夜の部 猿之助襲名『ヤマトタケル』

kenboutei2012-06-10

亀治郎改め、四代目市川猿之助襲名興行。他に香川照之市川中車、その息子が市川團子、そして猿之助が猿翁に襲名する。猿翁曰く「団体襲名」。先に夜の部を観劇。
夜の部の襲名演目は、スーパー歌舞伎ヤマトタケル』。猿之助を継ぐ者としては、当然の選択だろう。
開演に先立ち、新猿之助と新中車の二人だけでの口上がつく。芝居中の衣装姿のまま挨拶。昼に古典、夜にスーパー歌舞伎という構成は初めてのことだそう。昼と夜の間での舞台交換の大変さを強調していたが、確かにそうかもしれない。
ヤマトタケル』は、平成七年の演舞場で初めて観た。その時はまだ歌舞伎を観て日が浅く、こういうスペクタクルで分かりやすい演出にも、随分反応していた気がする。
しかし、今観ると、個人的にはもう駄目だ。以前は斬新に思えた演出が、ことごとく古く感じる。これは冒頭に新猿之助が口上で言っていた、「スーパー歌舞伎が古典になった。」ということとは違う。むしろその逆で、スーパー歌舞伎の賞味期限が切れたということなのだと思う。
台詞廻しの軽さ、ゴテゴテした舞台装置、演歌歌手も身につけるようになった衣装。全く初めてならまだしも、二度三度観るのは少々辛い。梅原猛の脚本も、結局征服した民族のご都合主義にしか受け止められない。
とはいえ、立ち回りはそれなりに面白く、場面としては第三幕の「伊吹山」が良かった。
猿之助は、さすがに後を継ぐものとして、前の猿之助を若返らせたようなヤマトタケルであった。しかし、最後の「天翔ける心、それが私だ」という台詞は、やはり前の猿之助の方が感動を呼ぶものがあった。それは、この台詞がヤマトタケルであると同時に三代目猿之助という役者の生き様を反映させた台詞だからだろう。もし、新猿之助がこの言葉で感動させられるとするなら、それはこの後の彼の役者人生如何なのだと思う。
猿之助のみスーパー歌舞伎の台詞調。他の役者は、実は歌舞伎の台詞廻しである。新中車はそのどちらでもない。
出演者では、彌十郎と門之助が良かった。特に門之助は白塗りの皇后から伊吹山の姥神となり、カーテンコールでまた皇后に戻っていて、化粧と着替えがさぞ大変だったと思う。
右近はじめ澤瀉屋軍団が舞台をしっかり支える。段治郎改め、月乃助も久しぶりに観る。
カーテンコールでは、新猿翁も登場。中車としっかり手をつないでいたのが感動的。