平成中村座五月 昼夜

kenboutei2012-05-27

平成中村座のロングラン公演もようやく最終月。しかも今日が千秋楽。といっても、明日急遽昼だけ追加されたが。
昼の部
『十種香』七之助の八重垣姫、勘九郎の濡衣、扇雀の勝頼、みな初役らしい。
七之助の八重垣姫は、登場時の背中の見せ方があっさり。綺麗に見えるが、ただそれだけで、味わいに乏しい。しかし、これからも観続けていきたいと思わせる、新鮮かつ将来性ある八重垣姫であった。
勘九郎の濡衣は、最近立役の多かったせいか、意識的に丁寧、慎重に女形を演じているように感じた。そのせいか、濡衣としての面白味には欠け、印象が薄い。
それぞれ個体では物足りない部分があるものの、勘九郎七之助の兄弟が女形で並ぶと、舞台が華やかな雰囲気となり、兄弟一体としての独特の魅力を感じた。本来芝居の本質とは違うのだが、そこが面白かったといえば面白かった。
扇雀の勝頼は、全体的に硬質。最初の出で、肘を曲げて形となる時も、ぎこちなさが目についた。
『弥生の花浅草祭』染五郎勘九郎で、「神功皇后武内宿禰」→「三社祭」→「通人・野暮大尽」→「石橋」と踊っていく。メインはもちろん「三社祭」で、二人がそれぞれの持ち味を発揮していて面白く観ることができた。
しかし、最後の「石橋」が全てをぶち壊す。
ただの毛振り競争。観客の反応も、染五郎勘九郎の首の回転が早くなるにつれ、「ウォー」とか「イェー!」という、歌舞伎座や演舞場では聞いたことのない、歓声。ここはバンドのライブ会場かと錯覚するほど。
ある意味、敷居を低くして客層を広げることを狙ってもいた平成中村座の本質ではあろうが、正直言って、今目の前の舞台にあるのは、「石橋」という舞踊ではなく、派手なロングヘアーの鬘をぶん回すショーに過ぎない。後に残るのはただの熱気だけで、せっかく気持ち良く観ていた「三社祭」の記憶さえ、この熱気に置き換えられ、忘れられてしまうだろう。一体自分は何を観に来たのだろうと、舞台と観客がどんどんヒートアップすればするほど白けていった。
『め組の喧嘩』勘三郎初役の辰五郎。最近は菊五郎のイメージが強い辰五郎だったので、新鮮。印象に残ったのは、辰五郎が仲間に向かって杯を割る前に「みんな、いいな。いいんだな。」と念を押す「いいんだな」の台詞を、勘三郎菊五郎と違って、やや唄って言うところ。こういう部分に、勘三郎らしい役者っ気を感じた。
場面的には、初めて観る三幕目の「喜三郎内の場」が、面白かった。梅玉の喜三郎が芝居を締めた。
終幕後、カーテンコールとなり、舞台奥が開いて神輿が登場。三社祭の名残。役者も加わり、みんなで担いでいた。その後、挨拶。珍しく梅玉も喋った。勘三郎、追加公演の言い訳か、「今日が本当の千秋楽」。

夜の部
『毛抜』『毛抜』は早くから7月に国立劇場の鑑賞教室の演目に決まっていたが、それにわざとぶつける手法も、昼の追加公演同様、松竹の伝統芸なんだろうな。
それはともかく、橋之助の粂寺弾正。柄は合っているのだが、何かと実事風になる橋之助には鷹揚な荒事はニンではない。だんだん退屈になって、途中でウトウトしてしまった。そういえば、前進座で圭史がやった時も、寝たなあ。『毛抜』は面白い芝居だと思っていたのだが・・・。
『志賀山三番叟』勘九郎の三番叟、鶴松の千歳。志賀山流の三番叟は、中村屋ゆかりのものだそう。筋書を読むと通称『舌出三番叟』とあったが、いつもの「舌出」と違って古風な演出であった。ただ、一番良かったのは、踊りの前の勘三郎と小山三の二人での『口上』。終始泣いている小山三の姿がまだ目に残っている。
『髪結新三』初めて観る梅玉の忠七がとても素敵だったので、途中までは気持ち良く観ていたが、「新三内の場」からコントまがいとなり、すっかり興醒めとなってしまった。
橋之助の家主長兵衛というのは、やはり無理な配役で、勘三郎の新三とのやりとりは、すっかり内輪のくすぐり合いに終始。誰がやっても面白くなる場面とはいえ、間合いや繰り返しの台詞の妙といった芸を味わうといった雰囲気ではなく、ただただドリフのコントを観ている感じ。しかし周囲はそれを喜ぶばかりなので、ますます一人白けていくという悪循環に嵌まってしまった。おまけに、家主の女房役の橘太郎が派手な倒れ方をして、観客だけでなく勝奴の勘九郎までもが吹き出してしまい、芝居としては無茶苦茶となってしまった。千秋楽のおふざけだと思えば、目くじらを立てることではないかもしれないが、昼の部から続く舞台と客の微温的関係が、どうにも気になって仕方がなかった。
更に驚くべきことが起こったのは、「元の新三内の場」が終わった直後。コントまがいの結末に大満足の観客は、これで終わりだと思ったのか、幕が閉まると、なんとカーテンコールを求める手拍子をしだしたのである。これも平成中村座ならではの現象なのだろう。もちろんここで終わりではなく、ちゃんと大詰の「閻魔堂橋の場」はあったのだが、何だか間の抜けた最後となってしまった。
勝奴の勘九郎は、目付き鋭く勘三郎の動きを観ていて、いかに新三を勉強するにしても、今の自分の役に没頭しきれていない感じがした。
源七親分の彌十郎が安定。中村屋一座には珍しい菊十郎の鰹売りの登場が嬉しい。