前進座 五月国立劇場公演

kenboutei2012-05-13

前進座恒例の国立劇場公演。今回は「国立劇場大劇場出演三十回記念」と銘打っている。色々考えるものだ。
しかし、開幕の「口上」は、この場だけ出場予定の梅之助が体調不良で休演。矢之輔が代わりに口上。圭史が次の幕の準備があって出られないとはいえ、やはり彼が今の前進座の事実上のNo.2なのか。
後ろの老人が、目も耳も悪いのか、口上が始まったにもかかわらず、隣の同伴者にしきりに「え?梅之助じゃないの?梅之助じゃないの?」と大声で問い掛けていたのが、耳障りであったが、何だかおかしかった。
『鳴神』明治期の二代目左團次岡鬼太郎演出で上演するというのが目玉。圭史の鳴神上人、国太郎の雲の絶間姫。
確かにいつもの松竹系とは違い、よりおおどかな雰囲気。上手の庵は四方に壁がなく、質素である分、古風な佇まい。冒頭からの黒雲坊(山崎竜之介)、白雲坊(松涛喜八郎)のやりとりも、ゆったりとしていて、どこか前に観た映画『美女と怪龍』の殿山泰司、市川祥之助コンビに似ている。(この映画も長十郎はじめ前進座出演であったから、当然かもしれない。)
圭史の鳴神は、そうした古めかしい雰囲気に似合った、鷹揚な芝居でとても良かった。あまり古典味のない役者だと思っていたが、どこか長十郎にも似たイメージもあり、やや見直した。
国太郎の雲の絶間姫だけが、そうした歌舞伎空間から遠く離れたところにいたものの、前進座の財産としても貴重な、面白い『鳴神』であった。
筋書には、前進座における『鳴神』上演史が載っていたが、当然ながら(?)、長十郎脱退直前の、団伊玖磨によるオーケストラ演出の話は触れられていなかった。
『芝浜の革財布』矢之輔の熊五郎、辰三郎のお春。自分は初めて観るが、これも前進座のレパートリーの一つだそう。菊五郎劇団で見慣れている立場としては、前幕の『鳴神』同様、松竹系とは異なる前進座風料理を期待していたのだが、冒頭から矢之輔の演技がわざとらしく感じ、そのうち、ぐっすり眠ってしまった。体調不良によるものではなく、明らかに退屈のため。しかし、その割には周囲の客は、よく笑っていたようだ。辰三郎のお春の方は、まだ味がある感じがしたが、それも定かではない。
 
創立八十一年目の前進座。拠点である吉祥寺の劇場も売ることとなり、梅之助も口上すら休演。個人的には前進座の将来展望が全く見えないと感じているのだが、今日の国立劇場はほぼ満員の大盛況。今月の新橋演舞場よりも入りが良い。これが地方の団体客に支えられた劇団の強みなのだろうか。(或いは弱みか)