4月国立劇場 『絵本合法衝』再演

kenboutei2012-04-08

昨年3月、震災の後の自粛モードで途中公演中止となった仁左衛門の『絵本合法衝』の再演。自分は震災二日後、国立劇場がまだ中止を決めきれないでいた時点に観ることができたので、今回2回目。前回との比較も含めて、改めて面白く観れた。 
もっとも、序幕は平板。仁左衛門の大学之助も前回感じた程の面白さはない。両手をすっと伸ばして着物の襟を綺麗な形にみせながら立つ姿は、魅力的だったが。前回高橋瀬左衛門を演じた段四郎が出演しておらず(病気らしいが、大丈夫だろうか)、左團次弥十郎と二役。ただこの辺は、ウトウトしてしまい、あまり印象に残っていない。
前回観た時は、その直前に南北の原作を読んで大学之助の方に魅力を感じていたせいか、仁左衛門の悪の二役も、個人的には大学之助側に興味の比重が強かったのだが、今回改めて見直すと、構成上は立場の太平次に強くスポットが当てられており、実際、仁左衛門の太平次は、前回以上に悪虐性が増していながら、どこか憎めない愛嬌もあり、とても魅力的、この役を今ここまで演じられるのは、他にいないだろう。(吉右衛門だと悪の部分が重くなりすぎるような気がする。幸四郎だと陰鬱だ。強いて挙げれば海老蔵がニンだと思うのだが、今のような台詞廻しの悪癖ではなあ。)
時蔵のうんざりお松も、前回より格段に進歩。特に、最初のかまぼこ小屋から姿を見せたところの形が良い。
仁左衛門の太平次は、一つ家の場での立ち回りで、水平に両腕を開いた見得をする。面白い型だなあと思っていたが、プログラムの口絵に二代目左團次が同じ形をした写真があった。これを意識したのかもしれない。(ただ、左團次は、戸の前で立ち塞がるようにしていたが、仁左衛門はもっと内よりで形になっていた。)
うんざりお松が倉狩峠で太平次に殺される直前、井戸の水を汲んで太平次の手にかけてやる場面も、プログラムに紹介されている初代豊国の錦絵と同じで、こういうのを確認できる作業が、個人的には楽しい。
仁左衛門左團次時蔵、孝太郎、愛之助と役者が揃っただんまりも、久しぶりに、まともなだんまりを観た感じになれた。
秀太郎が太平次の女房(前回は上村吉弥)。さすがに仁左衛門との相性が良く、違和感がない。
孝太郎のお亀は、可愛らしかった。
左團次、最後の立ち回りでは口を開けながら動いていて、何だか苦しそうに見えた。
愛之助、高麗蔵、市蔵、秀調、男女蔵、梅枝と、前回から同じ配役が、皆手堅く安心した芝居を見せる。