三月国立劇場 『一谷嫩軍記』半通し。

kenboutei2012-03-20

「熊谷陣屋」の前に、「堀川御所」と「林住家」のうち「流しの枝」の件だけの二場をつけての上演。「陣門・組討」や「御影浜」は省略した、中途半端な半通し。つけた二場は、他の場を省略したことにより登場人物の整理整合が必要となり、筋を改変、簡略化。そのため義太夫狂言っぽさは極めて薄くなり、ただ筋を通しましたという、復活狂言の仕事としては最悪のパターン。結局、この二場の記憶は、すぐに忘却の彼方へ行ってしまうのだろう。
印象に残るのは、やはり「陣屋」だけとなる。今回は相模の入りからあるので(「通し狂言」ならぬ「通し一場」)、この場だけは丁寧でわかりやすくなって良かった。
ただ、せっかく久しぶりに復活した相模と藤の方のやり取りは、随分テンポアップされており(これも時間の関係か)、じっくり味わえるだけの風情は感じられなかった。
團十郎の熊谷。たぶん自分は初めて観るのではないかな。台詞の義太夫味はもちろんないけれど、姿は立派。存在感で見せる熊谷。最後の引っ込みも、人生の無常観を漂わせる在来の熊谷役者とは違い、熊谷が引っ込むというより、團十郎その人の引っ込みとなっている。こういう役者には、近代的な團十郎型ではなく、前近代の芝翫型の熊谷の方が合っていると思う。(家の型だから、変えるのは難しいのだろうが。)
魁春の相模は、雀右衛門藤十郎のような存在感や個性には乏しいが、規矩正しく、観ていてストレスを感じさせないのは、案外凄いことかもしれない。
東蔵の藤の方は、あまりニンではないが、何でもこなせる東蔵の本領発揮。
三津五郎義経が本役。
巳之助の軍次が大活躍。何度も出たり入ったりするが、気を緩めることなく、動いていた。
彌十郎の弥陀六、市蔵の梶原は安定。