12月国立劇場『元禄忠臣蔵』

kenboutei2011-12-04

またかの『元禄忠臣蔵』。作家シリーズ、真山青果ということで。
しかし、今回は吉右衛門が三十年振りに綱豊卿を演じ、もちろん自分も初見、それが楽しみであった。
吉右衛門の綱豊卿は、立派で綱豊卿そのもの。これが三十年振りなのかと思うほど、いつも観ていたような錯覚すら覚えるのだが、まだ日が浅いため、台詞は入っていなかった。
又五郎富森助右衛門との丁々発止のやりとり。青果独特の華麗で過剰な台詞の応酬の裏で、実は心理的な駆け引きをしていることが、二人のやりとりの中で見えてくる。そこが面白かった。
又五郎の助右衛門は初役だが、これも初役とは思えず、9月の襲名興行に入れても良かったのではないかとも思った。最近観てきた助右衛門の中では、最良の部類に入る。
梅玉の内匠頭は、刃傷の後の感情の発露が不安定。また、後の幕で新井勘解由で再登場するのが、さっき切腹したのに、と戸惑った。
「御浜御殿」での綱豊卿の最後の台詞、吉右衛門は「忘れるな。そちゃオレに」までは張って言い、「憎い口をききおったぞ」ではリアルに落とす。この抑揚がとても良かった。
「大石最後の一日」。吉右衛門は大石。最近はずっと幸四郎で観ていたので、実はこっちの吉右衛門も新鮮であった。しかし、この一幕で一番良かったのは、芝雀のおみのである。男に扮している時から、内面の煩悶を抑えている姿が実にいじらしい。琴の爪の件になり、両腕を畳んで泣き崩れる姿に、観ている自分の涙腺も緩んだ。