国立劇場・11月 近松二本

kenboutei2011-11-05

四十五周年記念企画の第二弾で、今月は近松を取り上げ、2作品。しかし、この演目ならば、「歌舞伎を彩る作者たち」という大仰なテーマの特別企画でなく、普通の公演として選択されていたとしても、何ら違和感がない。近松藤十郎出演なら、他に別の演し物もあるだろうに。来月以降の演目を見てもそうなのだが、やっつけ仕事感の強い、今回の記念企画である。
『日本振袖始』序幕に「振袖始」の由来となる一場をつけたのが新しい趣向。梅玉素戔嗚尊が、八岐大蛇の生贄の対象となり発熱している稲田姫の袖を脇開けして熱を冷まし、更にかつて自分が八岐大蛇を斬った剣を、その袖の中に忍ばせお守りとするのであった。
稲田姫は梅丸。まだ幼いが、清楚な感じがとても良い。儚気で守ってあげたくなるような佇まいは、今の菊之助が丑之助時代に演じた稲田姫を思い出した。
魁春が八岐大蛇。
『曾根崎心中』もう何度も観ているし、いつもお初は藤十郎だし、あまり気が乗らなかったのは事実であるが、それでも、やはり藤十郎の若さには驚嘆する。特に今回は、「生玉神社境内」で、徳兵衛がお初のことで親に啖呵を切ったところを聞かせる場面で、お初が喜んで手を叩いてもう一度聞きたがるところに、ちょっと感動した。この場面も何度も見ているが、藤十郎は、まるで子供がはしゃぐように手を叩く。その可愛らしさが素敵であり、そして、藤十郎は完全にお初に成りきっているのだということを、改めて感じた。
翫雀の徳兵衛。笠を被って出てくる姿が、だんだんサマになってきた。和本の挿絵にある、墨で一筆書きしたような顔の描線も、上方の味わいが感じられた。
亀鶴の九平次。顔の白塗りが強過ぎる。
セットは毎回工夫しているようで、生玉境内も以前観た時とは違う。心中の森の場は、何だかジャングルのようで、情景的には不似合。
全場を休憩なしの一幕で済ますための、色々な入れ事が、芝居としては味わいを損ねている。