9月新橋 又五郎襲名・夜の部

kenboutei2011-09-18

『沓手鳥孤城落月』「糒庫」は芝翫休演で、福助淀君。おそらくは想定内の代役だったのだろう。新又五郎の秀頼、吉右衛門の氏家内膳、梅玉大野修理之亮。
福助淀君は、若いだけに動きが多い。身体だけでなく、顔の表情もよく動くのだが、一瞬、口を歪めた時の表情が、春仙描く五代目歌右衛門淀君そっくり。
↓こんな顔

血筋だけに似ていて当然かもしれないが、福助は明らかにこの錦絵を意識して表情を作っていると見た。
その福助の息子、成駒屋の御曹司・児太郎が、裸武者。健闘、と書きたいところだったが、腰の入っていない貧弱な武者姿は、芝居以前の問題。もっと基礎体力、役者としての骨格を身につけるべき。立ち回りにしても、相手との息や間合いというものに無頓着で、ぎくしゃくしているのが致命的。率直に言えば、役者としてのセンスに疑問符。
『口上』三代目又五郎、四代目歌昇襲名披露口上。
芝翫休演のため、吉右衛門が座頭として最初に挨拶。「芝翫に代わって自分が紹介。うまくできるか不安」といいつつ、最期は「無事にできた」と安堵し、観客の笑いを誘う。吉右衛門独特の愛嬌。又五郎襲名について、「遺族の申し出により」という言葉があったのが、印象的。そういう事実があったのか。吉右衛門の後は、上手方向に、魁春福助松緑芝雀東蔵藤十郎。下手に移り、梅玉段四郎染五郎、種之助、錦之助歌六、新歌昇、新又五郎
役者の顔ぶれ同様、質素な口上が続き、あまり思い出せないが、印象に残ったのは以下。
魁春「新又五郎は、よく父・歌右衛門と共演していたので、自分にとっては家族のよう。」(梅玉も同じような話)
福助「新歌昇は、平成生まれの急先鋒。」
藤十郎「新又五郎の父親とはよく飲んだ想い出がある。襲名は、自分も二度程経験したが、大変。」
当然なのだろうが、誰も又五郎のアキレス腱のことには触れなかった。

『車引』又五郎の襲名披露。梅王丸。期待の一幕は、本人のアキレス腱損傷というトラブルで、別の意味の興味で注目されるものとなった。
上手から登場する梅王の足は、昼の部の源蔵の時以上にがっちりとギブスで固められた上に筋隈入りのタイツで覆われており、象の足のようであった。見得は合引と後見に支えられて形を作る。当然ながら花道を飛び六法で引っ込むことはできないので(アキレス腱を痛めたのは、この飛び六法の時だったらしい)、下手へ下がってからの再登場。色々不自由ではあったが、声といい、気持ちの入り方といい、立派な梅王であり、これはこれで、記憶に残る舞台であった。
吉右衛門の松王丸。昼の部の『寺子屋』での松王以上の大きさ。登場直後の横向きの見得が実に立派で、鼻高幸四郎とまではいかないが、これも錦絵の如し。
桜丸は藤十郎。上方風で、隈取りはなし。衣装の色も含め、和事そのものの桜丸だったが、途中で泣き崩れ、梅王に叱られていたのには驚いた。初めて観る型。
梅、松、桜の三人が並んでの舞台映えが見事。新歌昇の杉王も気持ち良く、歌六の時平は前回以上に怪異さが増した。
全体的には満足のいく『車引』であったが、かなうことならば、又五郎の体調万全時に、全く同じ座組・配役で、もう一度観てみたい。やらせてあげたい。(昼の『寺子屋』然り。)
石川五右衛門夜の部は前の幕の『車引』がメインだったので、『石川五右衛門』は追い出し的な「楼門」だけかと思い込んでいたら、三幕もある「増補双級巴」で、染五郎の葛篭抜けの宙乗りまであった。やれやれ。
染五郎の五右衛門、松緑の久吉。ニンとしては逆だろう。
桂三の丸裸にされる公家役が、すっかり持ち役となっているのが嬉しい。