五月新橋演舞場 昼夜

kenboutei2011-05-22

昼の部
『敵討天下茶屋聚』
幸四郎が初役で元右衛門と東間の二役に挑む。この二役を一人の役者で演じるのは、天保以来とのこと。更に、いつもの上演形態に加えて前の場も出し、早瀬家が敵討に至る経緯を丁寧に描く。
結果としてわかったのは、この芝居の主役、主筋は、元右衛門でも東間でもなく、タイトル通り、敵討の主体である早瀬家とその苦難であるということ。
結局安達元右衛門という役は、これを演じた友右衛門が当て、それから下って猿之助のケレン的な演技でスポットライトを浴びてはいるが、しょせんは端敵であり、こうして通しで筋を辿っていくと、わざわざ幸四郎が自分のニンを無視してまで無理に務める役ではないことが明らかとなり、また、だからこそ、つまらなかったのも、致し方がない。
一方で、敵討ちがテーマであるなら、その悪の主役である東間三郎右衛門の方は、もっと大悪人としての存在感が強調されていても良い。しかしこれもまた、従来の演出ではそれほど重視されていなかったせいか、そして二役早替わりという制約もあり、幸四郎の東間は(これは幸四郎のニンであると思うが)、今ひとつ存在感が薄かった。
演出は多少手を加えたが、基本的には従来の「元右衛門主観」は変わらないため、本来の主役たるべき早瀬家の一行、すなわち、梅玉の伊織、魁春の妻染の井、錦之助の源次郎、高麗蔵の妻葉末の2カップルは、相変わらず刺身のつま扱いでしかなかったのが残念。
物語の構造と、そこから乖離した演出とのミスマッチが浮き彫りになった点が、本日の収穫といえば収穫。
一度、「早瀬家の艱難辛苦」の観点から、配役を含めて改めて上演するのも一興ではないだろうか。そうすれば、悪の東間ももっと魅力的になるだろう。(その上で元右衛門も生きれば、言う事なし。但し、それを二役早替わりにする余計な演出は不要。)
今日の演出で一番得をしたのは、早瀬玄蕃頭の段四郎かな。
片桐造酒頭に歌六
吉右衛門が人形屋幸右衛門で付き合うのはご馳走。
 

夜の部
『籠釣瓶花街酔醒』
これもいつもの上演形態に加え、端場と大詰を付け、「見染・縁切」前後の次郎左衛門を描く。
しかし、昼の部の「天下茶屋」と違い、これによってわかることは殆どない。むしろ、何故次郎左衛門は、いつまでも根に持って復讐しなければならなかったのか、籠釣瓶は抜けば不幸になるだけであって、持っているだけで復讐心を呼び起こすものではないことも、今回の場で明確となったわけで、次郎左衛門の行動心理の不可解さがより浮き彫りになっただけであった。
八ツ橋の行動心理についても、以前から自分が謎に思っていた部分が解決されたわけではない。彼女の場合は、栄之丞との関係性の中にその解があると思っているのだが、福助梅玉コンビの今日は、まあ、いつものどっちつかずの花魁と間夫の関係であり、目新しい発見はなかった。
とはいえ、今回の「籠釣瓶」は、吉右衛門の次郎左衛門、福助の八ツ橋、梅玉の栄之丞に、歌昇の治六、芝雀の九重と、安定感のある配役で、特にいつもの「縁切り」は、充実していた。
吉右衛門の次郎左衛門の、有頂天からどん底へ落ちる嘆きに、深みが増していた。特に、八ツ橋が出て行こうとするところ、目の前を通りすぎる八ツ橋の足元を、手で追いかけようとする仕草に、次郎左衛門のせつなさ、辛さが滲み出ていた。
福助の八ツ橋も、前回同様、行儀良く振る舞い、さすが成駒屋の家の芸として、大事にしていることがよくわかる。
初めて見る場は、それなりに退屈せずに見れたが、「だからどうした」という感じ。
壱太郎の二役は娘と初菊で、混乱する配役だが、ともに可憐で今後を期待させる。
芝翫が見染の場で立花屋の女将として登場。声の弱々しさが顕著で、観ていて辛かった。
縁切での立花屋魁春
釣鐘権八弥十郎がうまい。
『あやめ浴衣』芝雀錦之助歌昇