『ブラック・スワン』

kenboutei2011-05-30

有楽町マリオン東宝系。
ナタリー・ポートマンバレリーナ白鳥の湖を踊る」ということだけで、観に行った。(動機としては、それで十分。)
ところが、主役を完璧に演じなければならない強迫観念から、自分の身体を傷つけたり、妄想にとらわれていく様子を、主観的なハンディカメラで緊張を強いながら、ホラー映画風に描いていくので、最近そういう怖い映画は観られなくなってきている自分としては、大変困った。
たぶん、それでも美しいナタリー・ポートマンだったからこそ、途中で席を立たずに堪えられたのだろう。
白鳥の湖』における純粋無垢の「ホワイト・スワン」の対極にある邪悪な「ブラック・スワン」をも一人で表現するためには、これまでの優等生的演技では足りないとし、性的挑発をする演出家、という陳腐な発想も、やはり困ったものだ。(この演出家は、いつも寸止めだったが。)
それでポートマンが親に隠れてマスターベーションしたり、レズや薬に走るというのも、どうもねえ。(まあ、それをしているナタリー・ポートマンを観る分には、楽しめるけれど。)
観ているうちに、心の中では、昔観たバレエ映画『赤い靴』のことを、何度も思い出していた。
共演に、ポートマンと並んで好きな女優であるウィノナ・ライダーも出ていたが、これもホラー(むしろグロ)のような散々な扱いで、とても悲しい。
監督は、『レスラー』ダーレン・アロノフスキー。『レスラー』も身体を傷つける映画であったが、あれはプロレスが題材だからねえ。
ラストでナタリー・ポートマンは、『大物浦』の知盛のように、舞台上のセットから飛び降りる。演じ終えたナタリーは「完璧」とつぶやくのだが、そもそもの完璧の定義が甘すぎる。
踊りながら身体に黒い羽毛が生えてきて、ブラック・スワンとなっていくCGは、見事であった。顔のメイクが、「黒い助六」とでも言いたくなるような、剥き身の隈取りであったのも、面白かった。
・・・もう一度、『赤い靴』が観たくなった。(あの映画も主人公の精神は病んでいくのだが、もっと優雅な映画であった。)