前進座5月公演『秋葉権現廻船噺』

kenboutei2011-05-18

国立劇場での前進座5月公演。
『唐茄子屋』
落語が題材の世話物。勘当された放蕩息子が、叔父さんの世話で唐茄子売りとなり、下町長屋の住人の親切に触れて改心する人情噺。放蕩息子に芳三郎、叔父さんに村田吉次郎、叔母さんがいまむらいずみ、長屋の住人の大工に藤川矢之輔、同じく長屋の住人で、貧苦にあえぎ自殺未遂する後家に今村文美
ほのぼのとした雰囲気に、芳三郎は良く溶け込んでいた。
吉次郎の喋り方が、梅之助と全く同じ。ここまで口調をコピーしなくてもと思ったが、どうやらこれが前進座の風のようだ。(多分、翫右衛門も同じだったのだろう。)
冒頭、糸売りなどの物売りを出して江戸の風情を表現しようとしていたが、単なる雑音であった。

『口上』
創立八十周年記念の口上。5年前の七十五周年の時は、梅之助一人だけの口上だったのだが、今回は座員幹部勢揃い。その中で梅之助以外で話をしたのは、嵐圭史、矢之輔、いまむらいずみ、国太郎、芳三郎といったところ。圭史は第二世代、矢之輔は第三世代を代表するような口上であった。特に矢之輔は、梅之助以上に饒舌で、最後の観客との手拍子まで差配していた。梅雀も菊之丞も抜けた、これが今の前進座の勢力図。
中身については、記し留めておくこともなし。

秋葉権現廻船噺』
日本駄右衛門の原型という触れ込み、観た事のない芝居なので、かなり期待していたのだが、全くの凡作。つまらなかった。
筋書の中に紙が挟んであり、「序幕第一場は、演出の都合により、預かりとさせていただく」とあった。そして、いきなり第二場の「月本館」から始まった。
カットされた第一場の「島原街道の場」は、日本駄右衛門が月本家の重宝を奪い、腕に傷を受けながらも逃げて行くという、お定まりではあるが、事件の発端の場である。これをカットされては、後の場でいかに台詞で説明されても、芝居の世界に入りにくい。案の定、序幕の計三場は、月本家の広間と奥座敷を盆回しで行き来するだけの単調さで見せ場もなく、退屈極まりなかった。時間の関係でカットせざるを得なかったのなら、前幕の口上や休憩時間を調整すれば良い。劇団創立時に復活した芝居の再演という、歴史的にも意義あるはずの企画が、どんな観客層や幕内を意識したのかは知らないが、この程度の安易な演出でお茶を濁すこと自体、既に前進座の存在意義が空しくなっている証しではないかと、遅れてきた前進座ファンは思うのである。(前進座ファンと言っても、自分は長十郎翫右衛門ファンなので、仕方がないか。)
後は推して知るべし。2時間足らずの「歌舞伎っぽい」緩い芝居に、椅子を暖めて終わった。
圭史の駄右衛門は、見た目は立派だが、動くと小さく見える。
大詰の「足柄山の場」で、ようやく梅之助が登場。本舞台で袴がひっかかり転んでしまったが、最後は引っぱりの見得で決まる。隈取りが上方の錦絵風で、ここだけは幽かに「宝暦歌舞伎」を夢想させる匂いがあった。(あくまで梅之助だけだが。)