三月新橋演舞場 夜の部

kenboutei2011-03-21

震災、計画停電の影響だろう、休日としてはあまり記憶にない程のガラガラ。交通手段を気にしてか、幕間ごとに、人が減っていった。
『浮舟』
北條秀司が『源氏物語』の宇治十帖を題材に創作した、コキュの物語。
菊之助の浮舟、吉右衛門の匂宮、染五郎の薫。以前、それぞれ玉三郎勘九郎仁左衛門のキャスティングで、面白く観た記憶があるが、今回は、今ひとつの感。
吉右衛門の匂宮、台詞のもたつきがひどく、まどろっこしくてすっきりしない。とても匂宮のイメージではないが、浮舟を自分のものにした後、菊五郎の時方と語り合うところだけは、男の色気が出ていて良かった。(見方によっては、二人のオヤジのエロ会話であるけれど。)
その菊五郎の時方は、意外な配役だが、軽妙自在な演技で、匂宮をやっても面白いと思った。
菊之助染五郎は、共に平凡。
魁春の中将は、この人の男好きの血が、浮舟の悲劇を招くにしては、相変わらず淡白。
右近の侍従が、上出来。昨年の『合邦』を観た時は、女形はもう不向きかと思っていたが、今日は良かった。   
萬次郎の右近に存在感。芝雀の中の君、東蔵の弁の尼。
幕開きで魁春といちゃつく吉之助の立ち振る舞いが、ますます吉右衛門によく似てきた。
『筆屋幸兵衛』
幸四郎の筆幸は、2回目。今回は、社会批判を一層強調していた。錦吾の大家に、「何が文明開化だ」などと言わせている。原作の黙阿弥の筆を超えて、殆ど創作のような気もするが(確認はしていない。)、ちょっとやり過ぎではないだろうか。隣家との圧倒的な貧富の差を、余所事浄瑠璃の手法を借りて、さりげなく見せている黙阿弥のセンスに比べて、あまりに直裁で、品がない。まあ、それが幸四郎なのだろうが。
彦三郎の金貸金兵衛と、権十郎の代言人安蔵は、台詞が乱暴すぎて、黙阿弥の世界の人ではない。
幸四郎が水天宮のことを「すいてんぐ」と、短く言うのが、非常にひっかかった。
梅丸の娘お雪が、けなげ。
『吉原雀』
歌右衛門追善狂言とのことだが、歌右衛門の上演記録は数回で、本当にこの選択で良かったのだろうか。
それはともかく、梅玉福助の踊りは、とても良かった。
無人の観客席を前にして、二人は無心に踊っていた。
観客がいようがいまいが関係ない、踊りに集中している美しさがあった。
その真剣さが伝わり、少し感動を受けた。