『雲の上団五郎一座』

kenboutei2011-01-17

久しぶりの神保町シアター
「雲の上団五郎一座」は、東宝の喜劇で、不入りの時はこの芝居をかけておけば客が来た、という話を以前聞いたことがあり(確か菊田一夫入魂の『敦煌』でコケて、替わりに『雲の上団五郎一座』をかけて大入りとなったとか)、名前だけは知っていたが、映画になっているとは知らなかった。昭和37年、青柳信雄監督。
名前だけのイメージから、勝手に大宮デン助あたりが出ているのかなと思っていたのだが、エノケン三木のり平脱線トリオなどの一座であった。(調べると、デンスケは松竹系であった。)
カラーのシネスコ。意外と保存状態が良く、鮮明な映像であったのが嬉しい。
エノケン座長の旅回りの一座が、不入りで四国に流れ、そこで出会ったフランキー堺扮する演出家と組んで成功し、大阪の大劇場にまで進出する。
映画の中心は、おそらくは当時の舞台の再現であろう、劇中劇。エノケンはそれほど活躍しないが(しかし、カラーのエノケンを見られたのは貴重だ。)、三木のり平八波むと志由利徹南利明佐山俊二森川信らが、舞台で大暴れ。
圧巻は、大阪の凱旋芝居で演じられた、「源氏店」のパロディ。八波むと志の蝙蝠安がツッコミで、三木のり平の切られ与三がボケる。そこに由利徹のお富も登場して、テンワヤンワになる展開は、ほんのさわり程度ではあったが、今見ても抱腹絶倒である。(というか、笑いの基本は、今も昔も殆ど変わっていない。今のお笑いが新しいことをしているかというと、そうでもないことが、よくわかる。)
とぼけた三木のり平のうまさに舌を巻く。
由利徹アナーキーさも驚いた。晩年のテレビ(といっても10年以上は見ていたと思うが)のイメージしかなかったが、身体の動きは、実に過激だ。ビートたけしの一連の挙動が、おそらくは由利徹のコピーであることも、この映画からは推測できる。
四国の座元の花菱アチャコも面白い。よくモノマネなどでは知っていたが、本物をきちんと見るのはこれが初めてかもしれない。中気になってからの喋り方が絶品で、しかし、これは今のテレビでは放映されないだろうなあ。
勧進帳』をフランキー堺の弁慶、森川信の富樫でやるのも見所の一つ。初めから台詞はデタラメという設定ながら、山伏問答の雰囲気が出ているのは、さすがである。フランキー堺は、勧進帳読み上げも歌舞伎調の抑揚を誇張的に表現して笑わせ、飛び六法も途中までうまく見せながら、最後はジャズを流してステップを踏みながら退場する。どこかの落語家の鹿芝居よりも、よほど見応えがある。当時の芸人は、歌舞伎の真似事くらいは、素養として身につけていたのであろう。(それは、三木のり平などにも言えることだ。)森川信の富樫は、顔が今の梅玉に似ていた。
西部劇風の芝居をしていたのが、伴奏音楽のレコードをかけ間違えて、安来節となり、みんなでドジョウすくいをすることになってしまうのも、ベタながら笑ってしまった。
沢村いき雄、高島忠夫藤木悠など、お馴染みの東宝映画人も登場。女優陣は北川町子、水谷良重と、やや物足りない。
明るく楽しい東宝喜劇だが、実はフランキー堺の演出家(「武智歌舞伎」ならぬ「サカイ歌舞伎」と言っていた。)の、「芝居は、役の気持ちさえ理解していれば、いくらでも演じられる」という主張に、座員が反応し、由利徹らが馬の足の演出にまで自分の意見を言う場面に、制作者の意図がさりげなく込められていたのだと思った。
・・・それにしても、この時代にタイムスリップして、生の舞台を観てみたいなあ。(それが無理だからこそ、この映画は貴重だ。)