『時をかける少女』

kenboutei2010-03-29

シネスイッチ銀座で、ご存知『時をかける少女』を観る。先年の細田監督によるアニメ化に続く、劇場版最新作。谷口正晃監督。今回は、細田版で真琴の声を担当していた、仲里依紗が主演の実写版。(筒井康隆の『時をかける少女』は、もはやアイドル女優の登竜門のような作品となっており、昔で言えば川端康成の『伊豆の踊子』や三島由紀夫の『潮騒』みたいな位置付けとなっているよなあ。)
もっとも、アニメとの連続性はなく、むしろ大林宣彦監督・原田知世主演バージョンの後日譚で、あの芳山和子が薬学者となり、タイムリープのできる薬を作るが、交通事故にあい、代わりに娘である芳山あかりがタイムリープする。ところが目的の年代である1972年4月を1974年2月に間違えてタイムリープ、そこで出会う若者との、青春ドラマが始まる。
あかり役が仲里依紗。とにかく彼女が素敵であった。
傲慢不遜で、世の中には怖い者はいないといった感じでその辺を闊歩している、今時の女子高生(自分の通勤駅にも大勢いる。)を、見事に活写している。つんと上向きの鼻と、への字に曲げた不機嫌そうな大きめの口が、気の強さを表しており、そうした女子高生の象徴として、見事にマッチしていた。(この顔で上から目線で何か言われると、何でも従います、となってしまいそうだ。)
そんな現代の女子高生が、70年代の映画オタクの貧乏学生の一間のアパートに入り込むという設定だけで、いかようにも物語は面白くなりそうなのだが、これはあくまで『時をかける少女』、タイムトラベルのせつない青春ストーリーに収斂させなければならない。
あかりが携帯電話を見せて未来から来たことを信じさせたり、銭湯で女湯に入り、湯上がりのコーヒー牛乳やマッサージ・チェア(按摩椅子といった方が良いか)を初体験するといった程度で時代ギャップのコネタは留め、母親との再会を約束していたという、あの深町一夫を探すのであった。
映画開始早々の伏線で、その後の展開はだいたいわかってしまうのだが、それでも、あかりが映画青年を追い掛けきれない場面は、ぐっとくる。この辺りからの深町一夫役の石丸幹二がとても良い。(大林版のあの「深町君」とはエライ違いだ。)
「約束は消えていない」という言葉に、思わず落涙した。
映画青年役の中尾明慶も好演。
芳山和子は安田成美。ここは原田知世に是非、とは思ったが、それをやってしまうと、ゴローちゃんや深町君まで、過去の映画に囚われてしまう畏れもあり、まあこのキャスティングで良かったという気もする。だいたい、今回の映画は、尾道を舞台にしているわけでもないし。
70年代の和子を演じる石橋杏奈が、清楚な感じで、これも良い。実は未来の娘であるあかりと会った時には、既に和子と深町の間に起こった一連の出来事は終わり、深町に記憶を消されているわけで、ここにもドラマが起こってもよさそうなのだが、さすがにそれでは話が拡散するばかりになるためか、彼女は控え目な役どころで終わっていた。本当はもっと活躍しても良いと思わせる、魅力的な女優でもあった。
70年代の描写は、可もなく不可もなく。映画青年の部屋は、まるで自分の学生時代の部屋を観ているようで、それだけでノスタルジーに耽る。(ちょっと時代はずれるのだが。)
中尾明慶と友人のカメラマン志望の青年役の青木崇高(『ちりとてちん』の草々だ。)との会話は、いつも映画のことばかりで、当時あったであろう学生運動の気配はまるで感じられなかったのも、制作者が物語の世界をある程度限定していたからなのだろうか。
深町があかりに、未来人の名前、ケン・ソゴルを名乗った時、あかりが「ソゴルって・・・」と失笑気味に呟いていたのが、ちょっとおかしかった。
上映前にロビーで流れていた、いきものがかりの『時をかける少女』の歌が、力強いロックで、とても良かった。(原田知世のかよわい歌唱も捨て難いが。)

時をかける少女 オリジナル・サウンドトラック

時をかける少女 オリジナル・サウンドトラック