『東京の休日』

kenboutei2010-02-16

連日の神保町。今日は『東京の休日』を観る。山本嘉次郎監督。昭和33年の東宝映画。
李香蘭こと山口淑子の引退記念作品。ファッション・ショーやレビュー形式で、東宝俳優陣を惜しげもなく投入、これぞまさしくオールスター映画。看板に偽りなし。(先日観た『美貌に罪あり』『沈丁花』は、確かにスターの映画ではあるが、正直言って「オールスター」とまでは言い難かった。)
敗戦後の日本に3,000ドルかけて訪ねにきた日系一世の一行向けのショーで、草笛光子八千草薫扇千景らが踊る。観光バスガイドには香川京子淡路恵子が登場。
アメリカで成功したファッションデザイナーという設定の山口淑子は、その一行の同伴者で、来日中に久慈あさみに頼まれて、東京でファッション・ショーを開催することに。
そのショーでのひと儲けを期待し、上原謙小林桂樹宝田明司葉子らが絡んでいく。
ファッションショーの開幕には、「日本ファッション協会理事長」として、原節子が和服姿で挨拶し、山口淑子とがっちり握手。(原節子は、この山口淑子の引退映画の呼び掛け人だったらしい。)
ショーのモデルとして、河内桃子、根岸明美・・・他にも綺麗な女優さんが出ていたが、名前と顔が一致しなかった。久慈あさみのデザイン事務所の針子である白川由美や青山京子も、モデルとなっていた。
ファッションショーは無事終了するが、金目当てに群がった者にとってはあまり旨味がなかったらしい。化繊会社でこのショーに協賛した小林桂樹は、加東大介の宣伝部長に責められたりする。その会議の際の電話の取り次ぎだけに、池部良も出てくる。
山口淑子は離日前に、感謝の宴を開催。またまた華麗なレビューが繰り広げられる。雪村いづみ越路吹雪宮城まり子らが、歌い踊る。(自分にとっては、宮城まり子の雪ん子姿が強烈に印象に残る。子供の頃に観た、『ねむの木』やテレビ番組の切り絵が、トラウマのように思い起こされてしまった。)
山口淑子の故郷の住職の甥として、一時マネージャー的立場になる小泉博は、実はニセモノで、金目当てに近づいただけだったのだが、山口淑子と良い関係になり、本物の甥が来た時に身を引く。その本物の甥が三船敏郎。叔父の住職は柳家金語楼
他に中華料理店の主人で森繁久彌(店の名前が「李香蘭」。客である司葉子宝田明との、アドリブ的会話が面白かった。)、ホテルのボーイが久保明羽田空港に着いた山口淑子にインタビューする記者に平田昭彦、勝手に写真を撮って売りつけようとするインチキ・コンビが有島一郎三木のり平新珠三千代乙羽信子も出ていたらしいが、気がつかなかった。高島忠夫もバスの運転手としてクレジットしてあったが、わからなかった。
山口淑子の他では、司葉子八千草薫が準ヒロイン的扱いであった。司葉子は花屋の宝田明と恋仲の、喫茶店の店員。ちょっとふっくらとしていて(制作は『鰯雲』と同じ年。当時23、4歳。)、ゆったりしたワンピース・スカート姿が可愛らしい。
八千草薫は芸者役で、上原謙をそそのかす。大きな日本髪の鬘に、小さな顔、ふっくらした頬のアンバランスさが、逆に魅力的。鼻や頬、唇の輪郭の柔らかさが彼女の最大の魅力だ。後年の落ち着いた穏やかな女性の印象とは異なり、芸者らしいシャキシャキ感と溌剌とした若さがあって、自分の八千草薫像を大きく変えるものがあった。
その芸者の置屋(?)のおかみで、飯田蝶子も出ていたな。(買ったハンドバックの請求書は上原謙に送ると、電話で八千草薫に言わせる役だ。)
宝田明の初登場シーンは、ミュージカル調。宝田明が「♬ぼくは銀座の花屋だよ〜」(←不正確)と唄いながら、店屋に花を配達するのが楽しい。
日系一世の一行で、沢村いき雄、三好栄子、小杉義男ら東宝名脇役が頻繁に出てくるのも嬉しい。彼らが日本の繁栄を目の前にして、これが戦争に負けた国かどうかを言い争うのも、決して軽く見過ごすべきではないだろう。
惜しむらくは、こんな豪華な映画であるのに、フィルムの状態が悪く、色が劣化していたこと。オールスターのレビュー・ショーで、カラー・シネスコ映画なのだから、色が褪せていては、楽しさも半減。観ている方のうきうき気分も、色褪せてしまった。
ニュープリントがあるなら、是非もう一度観直してみたいものだ。