『永遠の人』

kenboutei2010-01-23

神保町シアター高峰秀子特集で、木下恵介監督の『永遠の人』。昭和36年の松竹映画。
阿蘇山の麓の小さな村を舞台にした、戦前から戦後にかけての女性の一代記。
戦地で足を負傷して帰国した大地主の息子・仲代達矢が、使用人の娘である高峰秀子に求婚。高峰は、まだ戦地にいる佐田啓二のことを思って拒むのだが、結局仲代に無理矢理犯され、そのまま夫婦となる。二人は三人の子を設けるものの、時を経ても高峰は決して仲代を許さず、それが結果的に様々な不幸を招くこととなる。
女性の一代記の反面、一方的な愛が報われない仲代達矢の苦悩も描いており、また、強姦の果てに生まれた長男が、その出自を苦にして自殺した阿蘇山の現場で、失踪していた次男が母親の高峰に言う、「僕はお母さんがお父さんを許さない限り、お母さんを許さない」という言葉に象徴されるような、「赦し」を主題に置いた映画でもあった。
冒頭、朝靄の中からゆっくりとしたズームで浮かび上がる高峰秀子の立ち姿。それは映画の後半のショットに繋がっているのだが、こうしたフラッシュバック的手法は、先日観た『女の園』でもあった。木下監督の好きな演出なのだろうか。
高峰秀子は、結婚前の娘の時は甲高い声で通し、戦後の貫禄ある女主人になると、一気に声が低くなり、その使い分けが見事。
自殺する長男に田村正和。父親役の仲代達矢とのツーショットは、案外貴重かもしれない。
高峰秀子の父親が加藤嘉で、いい味を出している。
結ばれずに別れた佐田啓二の嫁となるのが乙羽信子
戦争を挟み、時代が大きく変化しても殆ど変わることのない、美しい阿蘇の風景と、古い屋敷の佇まいが印象的。(家の中のモノは、少しずつ家電製品が増えていったが。)
家屋の中でのシーンは、中程度の長廻しが多用されていた。これが成瀬や小津だったら、どんな撮り方をするだろうかという興味も湧く、家のセットであった。
節目節目で挿入される、和製フラメンコ音楽も素敵。(「♬それはですな!それはですな!」)

木下惠介 DVD-BOX 第5集

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