『女の園』

kenboutei2010-01-14

神保町シアターで『女の園』を観る。木下恵介監督の昭和29年、松竹映画。
別名、『誰が芳江を殺したか』と名付けたくなるような、女子大で起こった紛争の悲劇を描く。
実際に京都であったという、女子寮の規則をめぐる学生と学校側の対立が、その頃のレッドパージの風潮を反映し、泥沼化していく過程が面白い。
学園紛争を描く映画としては、かなり早い方ではないだろうか。
厳しい寮の掟を守るために立ちはだかる寮母の高峰三枝子が、何と言っても恐ろしい。「お里が知れますわよ」という言葉が、こうも残忍に聞こえるとは。
財閥の娘でありながら、先頭になって権力に抵抗する学生に久我美子。新規に入寮し、奔放な今時の女性に岸恵子
勉強の遅れを取り戻そうと、消灯時間を超えても勉強したいと訴えるが認められない生徒が高峰秀子。年齢的に学生はどうかという点(当時30歳)は、一旦銀行でOLしていたという設定で、ごまかしている(?)。
高峰秀子には親が許していない恋人(田村高廣)がおり、その手紙を検閲されたり、親元に密告されたりと、さんざん理不尽なことをされるにもかかわらず、何故かこの学校に留まることに拘りがある点が、若干説得力を欠く。
田村とは、正月休みなどには家族の反対を押し切って逢い引きをしたり(姫路城でハンカチを振る高峰と、それを東京へ戻る列車で応える田村との別れのシーンは、これで映画が終わるのかと錯覚するほどのクライマックス感があった。)、一旦は学校を脱出し、東京の田村の元まで着の身着のままで行くだけの行動力がありながら、結局は学校に戻ってしまう彼女の心理が、今ひとつわかりにくい。(田村高廣が、全面的に高峰秀子の味方であるだけに、ハッピーエンドを望む観客にとっては、なおさら苛立ちが生じる。)
まあしかし、自分の意思を貫く自立した女性としての高峰秀子もいいが、数学が解けないで、「あたし駄目なのよ〜」と机に突っ伏して泣いてしまう高峰秀子もまた、魅力的であることには変わりないのであった。
怖い寮母の高峰三枝子には不倫の過去があり、その秘密を知っている久我美子が糾弾したり、一方でその久我の資本家出身の革命ごっこを指摘して対立する山本和子の存在(彼女は、ずっと黒い喪服のような服装なのだが、最期に久我らと協力して学校と戦うことになる時は、真っ白な服に変わっている。わかりやすい映画的演出。)、岸恵子のテニス姿や門限破りなど、他にも見所は満載であった。
学校と生徒の間でオロオロしつつも、高峰三枝子にしっかり意見を言う男性教師に金子信雄
良妻賢母を生み出す女子大の学長が東山千栄子。学校の理事に毛利菊枝。この二人が揃うと、『女優須磨子の戀』を思いだすが、ここでもやはり怖かった。
教師役で一瞬出てくる死神博士天本英世)が、いかにもインテリ風で素敵であった。
田村高廣は、これがデビュー作とのこと。爽やかではあるが、なよなよした感じもあり、その点は弟の正和に似ている。
山本和子は、毬谷友子の母だったのか。

女の園 [DVD]

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