新春浅草歌舞伎 一部・二部

kenboutei2010-01-17

去年の座組から、松也が抜けて、愛之助が復帰。
第一部
草摺亀治郎の五郎、勘太郎の朝比奈。
どちらかというと、勘太郎が五郎で、朝比奈を亀治郎の方がニンに合っていたような気がする。二人とも悪くはなかったが。
『御浜御殿』愛之助の綱豊卿、亀治郎富森助右衛門
愛之助は、(もう何度も書いているが)仁左衛門そっくりで、よくその口調をなぞっている。しかし、それはまだ真似の段階であり、愛之助としての個性の出た綱豊卿にはなっていない。そのため、亀治郎の助右衛門との対決が、どこかヨソヨソしい感じで、もどかしさがある。つまり、亀治郎の方は、芝居の流れで(ある意味自分の意思で)演じている要素が大きいため、型や台詞廻しをきちんとしようとしている愛之助と、スイングしていないのである。愛之助にとっては、「勉強芝居」であり、それはそれで大切なことだと思うが、そもそも、まだ綱豊卿を演じるには若過ぎる。どうせ勉強するなら、仁左衛門の綱豊卿に助右衛門でぶつかった方が、よほど得るものはあると思う。
しかし、この若さで、よくぞここまで演じられたな、という驚きに近い感想を持ったのも、正直なところである。
亀治郎の助右衛門は、出てきた時は、何となく『吃又』の又兵衛っぽい姿だったが、熱演であった。
七之助のお喜世は、二人の対決をキョロキョロ見過ぎる。兄の言動に思い余って斬り掛かろうとするところも、そんなにドタドタと慌てなくても良いと思った。
亀鶴が絵島だったが、女形の姿容はあまりに平凡で、存在感が薄れる。
『将門』七之助の滝夜叉姫。
浅草公会堂はスッポンがないので、暗闇になっている間に、花道付け際に立ち、スポットライトで登場という演出。振りがまだぎこちなく、滝夜叉の妖艶さや怪しさは皆無であった。美しいは美しいが、すっきりし過ぎて、こってり感がない。巻き手紙の扱いもややぞんざいであった。
勘太郎の光圀。
第二部
『袖萩祭文』いつもどこかで必ず眠ってしまう爆睡狂言『袖萩祭文』。しかし今日はこれまで観た中で、一番寝ないでいられた。それだけ勘太郎の袖萩が新鮮で、面白かったということだと思う。チョボに乗って動く仕種をしながら、「あぁ」とか声を出して嘆く部分に、情愛があった。
お君を演じた女の子も可愛く健気。
男女蔵の傔仗、歌女之丞の浜夕。
眠ってしまったのは、勘太郎二役の貞任と愛之助の宗任が出てきてから。(いつもはここで目が覚めるのだけど。)
悪太郎亀治郎が復活する、猿翁十種。(今月は新橋で右近がやはり猿翁十種の『黒塚』を出している。何だか不思議というか、感慨深いものがある。)
これは純粋に面白かった。亀治郎の酔態舞踊がとても良い。器用さを遺憾なく発揮。亀鶴、愛之助男女蔵らとの掛け合いも楽しい。このまま歌舞伎座に持って行っても充分通用するだろう。
 
亀治郎を中心としたこの座組も、もう10年とのこと。同じ若手メンバーだけで演じることのメリット・デメリット両方あるが、今年は良い方向に結実したと思う。難しい芝居でも、真っ正面からぶつかっていこうとする「熱」が感じられ、観ていて清々しいものがある。
今後は、同じ芝居を、幹部クラス相手に演じてもらえると、より一層、得るものが大きいと思う。(若手だけでまとまると、芝居の幅がどうしても広がらない面もあると思う。)

冒頭の挨拶は、一部が愛之助、二部が亀鶴。ともに舞台を降りて、客席からの質問を聞き(客は仕込みか?)、観劇中の拍手を慫慂するというもの。何年か通うと、少しマンネリ感もあるなあ。