『煙突の見える場所』

kenboutei2010-01-13

神保町シアター五所平之助監督の『煙突の見える場所』。昭和28年の作。
東京の下町から見える、4本の巨大な煙突が、見る場所によっては、1本に見えたり、2本、3本に見えたりするという話から、物事の本質も、見方によって変わることをエピソードを通じて訴えている(らしい)。
主役は二組のカップル。上原謙田中絹代は夫婦だが、田中絹代の方は戦争未亡人で戦後に再婚したという設定。この夫婦の家の二階にそれぞれ間借りしているのが、芥川比呂志高峰秀子。二人は夫婦ではないが、お互い惹かれ合っている様子。
映画の前半は、上原・田中夫婦の日常を中心に描かれるが、ある日、家に捨て子があり、その子の父が田中絹代の死に別れたはずの夫であったことから、様相は一変する。
泣き止まない赤ん坊を前に、ほとんど何もできない夫婦に苛立ちを覚えつつ、捨て置いた父親を探す羽目になる芥川比呂志の行動が面白い。
話が一つ所に収斂せず、むしろどんどん拡散していってしまう展開は、おそらく、小国英雄の脚本の力だろう。途中から、黒澤映画を観ている気分になった。
戦後直後の下町の生活実態が丁寧に描かれているのも興味深い。
田中絹代が、食べ残した魚の骨にお湯をかけてすする場面が、とても印象に残った。(ウチの母親も、こんなことしてたよなあ。)
死んだはずの元夫に田中春男、その今の女(すなわち捨て子の母親)が花井蘭子。
高峰秀子の同僚(商店街の宣伝放送という仕事が面白い。)で、金だけで結婚した男の無理心中から逃げることになる、ちょっと不思議系の女に、関千恵子。
隣家の法華経夫婦、三好栄子と中村是好がいい味を出している。
冒頭のナレーションは上原謙だったのが、途中で赤ん坊を探すモノローグが芥川比呂志になっていたのは、何故なんだろうか。

煙突の見える場所 [DVD]

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