『我が家は楽し』

神保町シアター高峰秀子特集で、『我が家は楽し』。昭和26年の松竹映画。中村登監督。
笠智衆山田五十鈴夫婦に、長女の高峰秀子、次女の岸恵子、他に幼い弟・妹の6人家族。
笠智衆はサラリーマン、山田五十鈴は内職で家計を支え、画家を目指す高峰秀子や、合唱サークルの京都旅行を楽しみにしている岸恵子などを暖かく見守る。
食事時の会話や忘れ物をめぐるエピソードなど、どこをとっても善人一家、『サザエさん』の磯野家のような感じのアットホームな家族。貧しいながらも両親を尊敬し、互いを労り、いつも明るく振る舞う姿は、日本人がイメージとして持つあり得べき家族の典型でもある。
笠智衆が勤続25年を表彰され受け取った金一封を、帰りの電車でスリに盗まれてしまうところから、状況は暗転、高峰秀子の恋人(佐田啓二)の死、絵の落選、家の立ち退き話など、次から次へと試練が続く。
しかし、それも予定調和的に解決していき(もちろん、佐田啓二だけは蘇るわけにはいかなかったが)、岸恵子が「埴生の宿」(「Home, Sweet Home」)を歌って、ハッピー・エンド。映画のタイトルは、この歌からきているものだ。
笠智衆は、森永製菓の人事課長で、勤続25年でもらえる永年勤続金は3万円。山田五十鈴との会話で2ヶ月分の給与であることがわかる。タイアップとはいえ、一企業の給与情報をここまでオープンにしている(映画の中の話だが、それほどデタラメな数字ではないだろう。)ことに驚いた。(今の水準だと100万くらいになるかも。勤続慰労としては、ずいぶんと高額である。)
金一封を手に、高島屋で買い物をする笠智衆山田五十鈴夫婦。すぐに子供達へのプレゼントを考えてしまう山田五十鈴に対し、「今日くらいは、子供の事は忘れろ。・・・忘れさせてやろうか?」と話しかける笠智衆。夫婦の会話としては、色気のある台詞なのだが、笠智衆の口から出ると、全くイヤらしく感じないのは、良くも悪くも、彼のキャラクターであろう。
高峰秀子は、キャンパスに向かう表情が素敵。芸術に触れている時の彼女の表情は、実に美しい。
この映画がデビューだという岸恵子は、初々しく、野暮ったい。(『君の名は』はこの2年後。)
山田五十鈴は典型的な良妻賢母役。
高堂国典が隣家の住人で、一言も台詞がないが、強烈な印象を残す。
同じ貧しい家族映画でも、リアリティの迫力からいえば、戦前の『はたらく一家』『綴方教室』の方が優れている。