『台所太平記』

kenboutei2009-11-10

神保町シアター谷崎潤一郎の原作は、谷崎としては劇的なものでもなく、極めて地味な印象があったので、これをどう映画化しているのか、とても興味があった。昭和38年作、豊田四郎監督。
地味な作品だけに、出てくる役者陣も地味。(何しろ、女中の話だし。)
谷崎家に雇われる女中として、森光子、乙羽信子京塚昌子淡路恵子水谷良重大空真弓池内淳子、団礼子、中尾ミエ。谷崎夫婦役に森繁久彌淡島千景。複数の女中にちょっかいをかけ、結局大空真弓と結婚するチンピラ風のタクシー運転手が小沢昭一。池内純子と結婚するのが三木のり平フランキー堺乙羽信子の恋人(後に結婚)として、ゲスト出演的扱い。
このキャスティングでも客が呼べたというのが、当時の日本映画の勢いだったのだろう。
森光子は森繁夫婦のセッティングで山茶花究とお見合いするが、結局田舎に帰る。乙羽信子は癲癇持ちで、フランキー堺と結婚。京塚昌子は、男の子種は薬局で売っていると思っている程の初心な女で、文通相手の松村達雄と結婚。淡路恵子水谷良重はレズで、森繁と相性が悪かった淡路がクビになると、憤慨した水谷も出て行く。
大空真弓と団礼子は、チンピラの小沢昭一を巡ってつかみ合いの喧嘩までするが、野心家の団礼子は映画スター(タカネヒダコという女優で、ダコちゃんと言われていた。明らかに高峰秀子のもじりだろう。)の家に移った後、父の炭鉱事故死で田舎に帰り、結局大空が小沢と結婚。ついでに(?)池内淳子三木のり平も結婚、二組の合同結婚式となる。最後に登場する女中が中尾ミエなのだが、まだ10代の若さで、さっさと辞めてしまい、森繁・淡島夫婦は、これからは女中の不要なアパートにでも引っ越そうかと相談して終わりとなる。
それぞれの女中にまつわるエピソードは、原作を手際良く整理したようであった。
森繁から気持ち悪がられる淡路恵子の演技がとても不気味で面白く、結構笑いをとっていた。
個人的には、「肝っ玉母さん」以外の芝居をほとんど知らなかった(他には新派の劇場中継のビデオを少し観た程度)、京塚昌子がとてもキュートだった。出入りの西村晃にそそのかされ、ゴリラの真似をするのが可笑しかった。
谷崎役の森繁も控えめな中にユーモア感が漂って味わいあり(ただ、作家としての谷崎潤一郎のイメージとは違ったが)。
妻の淡島千景のおっとりとした女主人ぶりも素敵であった。
観終わると、地味ではあったが、適材適所の絶妙なキャスティングであったと、納得。
帰宅後、森繁久彌の死を知る。実質的な追悼映画鑑賞となった。