『斜陽のおもかげ』

kenboutei2009-11-11

神保町。斎藤光正監督『斜陽のおもかげ』。昭和42年の日活映画。
太宰治『斜陽』のモデルとなった女性と太宰との間に生まれた娘による手記を映画化。といっても、自分はその手記はおろか、『斜陽』すら読んでいないのだが。
娘は吉永小百合、その母親(すなわち太宰の愛人)が新珠三千代
新珠三千代は、『斜陽』のモデルとなったことを誇りとして生きており、子供を産んですぐ別の女性と入水自殺した太宰についても、随分と美化して娘には教えているようだ。親子が暮らす狭いアパートの本棚には、太宰の本がずらりと並んでおり、あろうことか、この親娘は、夜寝る前に、『斜陽』の一節(多分)を一緒に朗読して喜んでいるのである。
太宰のことを知りたいと言って吉永小百合に近づき、そのまま恋人になってしまう男が岸田森。その両親が芦田伸介高杉早苗猿之助の母親でもある高杉早苗が割と活躍するのが、ちょっとした収穫。
この映画、フィクションかと思って観ていると、突然、太宰を辿るドキュメンタリー風の演出となって、激しく戸惑う。吉永小百合が(彼女はあくまで太宰の娘役なのだが)、檀一雄の家に行くと、檀一雄本人が出てきて、太宰のことを語り出し、一度太宰の地元である津軽に行くべきだと言う。
津軽に行ってみると、太宰の幼少期のばあやが迎えにくるのだが、これは北林谷栄であり、本人ではない。(彼女の津軽弁が実に味があって良かった。)
実家の方では、親戚が吉永小百合を歓待してくれるが、ここまでくると、彼らが役者なのか本人なのかさっぱりわからなくなった。
津軽滞在中に、岸田森が登山で事故に合った知らせが届き、再びドラマが再開される。
山腹で死者を弔うかのごとく焚き火をし、合唱している山男たちに、吉永小百合が必死に岸田森の行方を訪ねるが、誰も答えてくれないという、シュールな場面に、またしても戸惑う。
そういえば、吉永小百合が帰る汽車の線路が、夕陽に向かって延び出すという不思議な映像も忘れられない。
小池朝雄が、吉永小百合を太宰の正妻の娘と合わせて記事にしようとするジャーナリストとして登場。この時の場所が早稲田大学界隈で、喫茶店での学生同士の会話が、いかにもその時代のもので、ちと恥ずかしい。
吉永小百合が家計を助けようとアルバイトの面接を受けた時の、面接官の質問の数々は、今なら完璧に就職差別でアウトだろう。
オープニングで、新珠三千代が井戸に落ちた娘を助けようと、暗い井戸の中を自ら降りていくというショットも、結構衝撃的であった。
個人的に日活と東映の映画にはあまり縁がなく、吉永小百合の若い頃の映画も、今回が初めてのようなものだが、やはり小百合様は可愛かった。(制服姿より、私服の方が良い。)
・・・この映画を機に、iPod touch青空文庫の『斜陽』をダウンロードした。