9月歌舞伎座 夜の部

kenboutei2009-09-19

『鞘當』・『鈴ヶ森』この二つが、『浮世柄比翼稲妻』の中の一幕だったとは、知らなかった。(平成16年1月の国立での通しも観ていない。) といっても、二つ並べて観てもその関連は全くわからない、いつもの見取りと同じだったけれど。
「鞘當」は松緑の不破、染五郎の山三、芝雀の留女。松緑染五郎のやり取りに、だんだん眠くなったのは、別に二人の台詞廻しに陶酔したからではない、と思う。芝雀の登場はあまり覚えていない。
「鈴ヶ森」は、梅玉権八吉右衛門の長兵衛という、珍しい組み合わせ。梅玉の白井権八というのは、あまりイメージになく、初役かとも思ったのだが、筋書の上演記録では、福助時代には結構演じていた。確かに前髪姿の若衆は、久我之助や敦盛と同じく、梅玉の持ち味でもあり、今日の権八も、なかなか良かったと思う。特に、動きに品があるのが良く、雲助の死体から取った手拭で、刀の血潮を拭き取る一連の動作などは、役者の熟練で見せる美しさがあった。
吉右衛門の長兵衛は、さぞ良いだろうと思っていたのだが、案外に声に力強さがなく、形の大きさだけで魅せていたような感じ。ただ、声量はともかく、台詞廻しの面白さは、さすがであった。(「親父には及ばぬ二代目だ」という謙遜台詞で、きちんと客の反応を得ていた。)
勧進帳幸四郎の弁慶、吉右衛門の富樫、染五郎義経。七代目幸四郎没後60年と銘打っているが、むしろ白鴎が泣いて喜ぶような配役。(七代目幸四郎だと、成田屋松緑がいないと片手落ちだろう。)
幸四郎の弁慶は、本当にまたか、という感じで、もう何も書くことはないと思っていたのだが、今日の弁慶は、これまでと異なり、低い声に重厚感が伴い、また、いつもの説教臭いというか、分別臭い感じが薄く、むしろ様式性に比重を置いた感じであったので、割合観やすかった。過去に観た幸四郎弁慶の中では、一番良かった。
吉右衛門の富樫は、この前の富十郎矢車会での富樫と同じような、ゆったりとしたテンポの堂々たる富樫。
この弁慶と富樫でさぞ面白いものになったかというと、さにあらず、どういうわけか化学反応はせず、弁慶は弁慶、富樫は富樫、という感じで、特に富樫二度目の出からは、少し退屈であった。
『お土砂』・『櫓のお七』これも『松竹梅湯島掛額』の中の一幕ずつだが、やはりそれぞれ独立した狂言と考えて良い。3年前の新橋でも吉右衛門の紅長で観ている。吉右衛門は、前回以上に軽妙になっていた。恥ずかしげに、「ポーニョ、ポニョ、ポニョ」と歌うのも微笑ましい。前回観た時に謎だった、「ワイパー」という言葉は、今日は、「〜〜だワイ。」という言い方になっていた。(別にギャグでもなさそうだ。) 丁稚の玉太郎が可愛い。
「櫓のお七」は福助。人形振りでの手の動きがうまい。下女役の歌江が活躍。(膝が悪そうだったのが心配。)