『噂の娘』

kenboutei2009-07-27

神保町シアターで『噂の娘』。『妻よ薔薇のやうに』に引き続き、千葉早智子主演の昭和10年作。そして、この映画でもまたまた妾が登場する、お妾映画。
傾きかけた老舗の酒屋が舞台。店の切り盛りは長女の千葉早智子が中心。父親は妻に先立たれ、妾との間に次女の梅園龍子がいる。千葉早智子とは異母姉妹ということだが、梅園龍子自身はそのことを知らない。姉の千葉早智子はその妾に好意を寄せ、何とか妹と実の両親が一緒に生活できることを望んでいる。(この辺は、『妻よ〜』の千葉早智子と同じ感じだ。)そのため、親戚の藤原釜足が持ってきた縁談も進んで受けるが、相手の大川平八郎は、同席していた現代っ子梅園龍子の方が好きになる。姉と違って奔放な梅園龍子は平気で大川平八郎と付き合うが、やがて父親にバレ、しかも同時に実の母親も明かされ、動揺して家を飛び出そうとする。しかしその時、父親の方も、酒の偽装販売(密造?)の容疑で警察に連行されてしまうという、嵐のような出来事が一気に押し寄せる展開に息を飲むのだが、道楽三昧で店を傾けたくせに楽隠居している祖父が、千葉早智子に向かって、「これでまた良くなるよ」とか無責任なことを言って、映画は終わってしまった。
妹役の梅園龍子が、『乙女ごころ三人姉妹』の時より、一層生き生きしていて良かった。甲高く、棒読み風の下手な台詞廻しが、かえって愛らしい。
千葉早智子が帳簿の数字を丁稚に算盤させるが、5回やって5回とも違う答えになると言って叱るのがおかしかった。
舞台となる酒屋と、その向かいの床屋の位置関係・構図等を見ると、この時期には既に成瀬映画のスタイルが確立されているのがわかる。