『舞姫』

kenboutei2009-07-31

神保町シアターの成瀬特集、今回は川端康成原作の『舞姫』。昭和26年。
学者の山村聰とバレエの先生の高峰三枝子夫婦は仮面夫婦。妻の高峰三枝子には20年来の心の恋人、二本柳寛がいる。そのことを山村聰だけでなく、長女も長男も知っていながら、四人家族は表面上は何となく成立している。
始終家を空けている山村聰が久しぶりに帰ると、家族は一気に緊張感を増す。食事の席でも、山村聰が真正面から二本柳寛との関係について高峰三枝子を攻撃する。その議論に子供達も参戦する。こんな家族が実際にいるのかね。
高峰三枝子が、戦時中の方が家族は一つにまとまっていた、と呟いたりするのも、いかにも作家の捉える家族像であり、観念的な映画になってしまったことは否めない。
冒頭、二本柳寛と高峰三枝子が一緒にバレエを観ていて、耐えられなくなった高峰三枝子が劇場を飛び出すという場面で、二人が不倫関係にある(その後の話では、肉体関係はないらしいが)ことがわかる。『鰯雲』『女の座』でもそう思ったのだが、成瀬監督は、登場人物の関係を手際良く説明する演出が、非常にうまい。
高峰三枝子の不倫というと、『挽歌』を思い出すが、『挽歌』では不倫相手が渡辺文雄で、この映画では二本柳寛。ともに不倫相手としては、ちょっと物足りない。男の色気より真面目さが先立つ。むしろコキュ側の森雅之(『挽歌』)や山村聰の方が、人妻を誘惑する(というか、根っからの女好き)キャラだと思うのだが。それとも高峰三枝子には、真面目な男によろめくというイメージがあったのか。
本作でデビューした、長女役の岡田茉莉子がとても可愛い。大きな瞳とちょっとアヒルっぽい唇が、少女漫画のよう。時々二重顎が気になるが、許容範囲。こんな可憐な娘が、その後『煉獄エロイカ』となるのである。
話の設定や展開は、成瀬というより溝口健二的だと感じたのだが、それもそのはず、脚本は新藤兼人であった。
バレエ親子ということで、高峰三枝子岡田茉莉子のレオタード(?)姿が貴重。特に、フルムーンで有名になった高峰三枝子の豊満なバストは、一見の価値あり。子供達を教える時の動きも面白い。(そういう映画ではないのだが。)