『妻よ薔薇のやうに』

kenboutei2009-07-26

成瀬監督の戦前映画、『妻よ薔薇のやうに』を観る。昭和10年作。神保町シアター
オープニングのタイトルロゴでは、『二人妻』と大きく出ていて、『妻よ〜』は、その下につつましく書かれていた。
「二人妻」とは、要するに東京の本妻と、田舎に別に二号がいるということで、成瀬映画では頻繁に出てくる、「妾もの」である。
山奥で砂金探しをしている父親を迎えに行くが、父親と愛人家族の事情を理解し、父親側につく本妻の娘、千葉早智子が、和風美人で良い。戦後の女優でいえば、山本富士子に似ている。(色々調べると・・・成瀬巳喜男の最初の妻だったのか!)
父親のもう一つの家族には一男一女があり、まだ子供の男の子が、父親と千葉早智子の関係を聴く度に、「あなたが大人になればわかる」と言われるのがおかしい。時々挿入される、この子の歌う唄が、どこか懐かしくて印象に残る。(映画のラストにも効果的に使われる。)
一旦帰京しても、本妻はプライドが高くて打ち解けず(俳句の「インスピレーション」の方が大事)、結局は再び愛人の元へ戻るのを止められもせず、一人泣いている。それを冷静に見ている千葉早智子が、「お母さんの負けね」と言い捨てて終わるという、戦前にしては(まだ戦争の影が薄いからか)、結構斬新なエンディング。
あまり馴染みのない戦前俳優陣の中で、本妻の兄役、藤原釜足が出てくると、ほっとする。(千葉早智子のフィアンセの大川平八郎も、ようやく顔を覚えてきたが)
オープニングは、都会のオフィスで残業している千葉早智子のショットから始まるが、帽子を被ったまま机に座って書き物(といっても、野菜などの値段を書いていただけ)をしている姿が、何だか不思議。
ワンシーンの台詞が終わらないうちに、次のカットになったりする工夫などが興味深かった。
劇中劇で、レビュー風『連獅子』が登場したが、毛振りの時の音楽が、派手なオーケストラだったのも、ちょっと驚いた。(第一次東宝歌舞伎?)