『夫婦』

kenboutei2009-07-21

神保町シアター、成瀬監督の『夫婦』。昭和28年の映画。
上原謙杉葉子の夫婦が、上原謙の同僚で、妻と死別し男やもめとなった三国連太郎の家に同居して生じる、微妙な三角関係を描く。フランス映画なら、ドロドロの深みに嵌っていきそうな設定なのだが、成瀬映画ではそうはならず、微妙な関係は微妙なまま、夫婦の引っ越しで呆気なく終焉する。
杉葉子は、これまでもいくつかの映画で見かけてはいたが、それほど好きな女優ではなかった。しゃくれ気味で鋭いアゴの形も、美形を損ねている。
しかし、この映画では、あまり女優然としない自然な雰囲気、いい意味での色気のなさが、男二人の間で何も起こらないリアリティを納得させる。上原謙の方もそうだが、あまり芝居上手ではない(むしろ下手な部類だろう)代わりに、演技に力が入っていないのが良い。(そういう意味では、三国連太郎は成瀬映画ではちょっと異質か。『あらくれ』仲代達矢にも通じる異質さ。)
夫婦倦怠テーマとしては、作為感の強い『驟雨』よりも好きだ。
妻が死んで一軒家に一人住む三国連太郎が、上原夫妻が住み込むと、二階の一室だけの間借り状態になって立場が変わるのが、面白かったというか、不思議。