五月歌舞伎座・昼の部

kenboutei2009-05-17

『暫』海老蔵の鎌倉権五郎を観るのは、襲名以来。今日は、花道揚幕近くで観る。その大きさ、まったくもって申し分ない。隈取りの映える横顔も、本当に見事である。国政が今の時代に生きているのなら、必ずやこの海老蔵の横顔を、五代目團十郎に代わって、描かずにはいられなかっただろう。
いつもながら、甲の声が気に障るが、一方で呂の声の凄みは充分。この高低のバランスが今後の課題か。ツラネでは歌舞伎座建替えのことに触れていた。
本舞台での元禄見得は、大分腰に力が入って、形になってきた。衣装の引き抜きの手順も含め、全体的にはこなし慣れた分、祝祭性や熱気に欠けたように感じたのは、観ている方にも慣れがでてきたせいもあるだろう。
最後の引っ込み、「やっとことっちゃ、うんとこな」の台詞の後に、「うーん、うーん」と2回唸るのが、何とも奇妙で、違和感を持つ。見得の時の発声以上に、みっともないことだと思った。
茶後見の子供がとても可愛かった。
翫雀の鯰、扇雀の女鯰は、ともに大らかで良い。
権十郎の成田五郎は今ひとつだったが、他の腹出しは、バランスが良かった。特に亀三郎の声と見栄えの良さを観るにつけても、何か大きな役をやってほしいと思う。
なにはともあれ、新しい歌舞伎座でも、海老蔵の暫は、イの一番に観たいものだ。
『寿猩々』富十郎の猩々。初めのうちは、新型インフルエンザの状況がどうなっているかなど、あれこれと他のことを考えていたのだが、途中からそんな雑念は消えた。富十郎の足運びの妙、竹本に合わせた足や首の振りの面白さに、どんどん引き込まれていった。それほど大きな運動量があるわけではないが、そのちょっとした動きで、妖しい生き物を現前させる。大きな白い顔に、赤毛がまたよく似合っていた。最後の引っ込みも面白い。
『手習子』芝翫。背景の桜と鳥居の柱の大きさが、「藤娘」の時の六代目の工夫を思い起こさせる。81歳にしてなお若々しい。引き抜きも楽しかった。
『加賀鳶』菊五郎初役の道玄。全体的にはまとまりがあったと思う。菊五郎は、イヤらしさとおかしみは同居していたが、凄みには欠けた。梅玉の松蔵が意外にも合っていた。お兼は時蔵だが、何だか気の毒。
『戻駕色相肩』あまり期待していなかったのだが、予想外に面白かった。松緑の次郎作、菊之助の与四郎、二人の最初の花道の動きから、躍動感を覚える。松緑は、楷書の動きに大きさが加わっていて、観ていてとても気持ちが良かった。杖を使った二本差しも面白かった。菊之助の方も柔らみがある。「戻駕」にも「きやぼうすどん」の詞章があるとは知らなかった。松緑が小気味良く当て振りをする。今度、旧三之助で是非とも『関扉』が観たいと思った。禿の右近は、やせて背が伸びたなあ。ちょっと窮屈な感じもしたが、嫌味のない踊り。
菊五郎劇団の未来を感じた追い出し舞踊で、気持ち良く劇場を出る。(入り口前は、夜の部の客で大混雑。)