『グラン・トリノ』

kenboutei2009-05-14

マリオン、丸の内ピカデリー
クリント・イーストウッドの新作。本人主演は『ミリオンダラー・ベイビー』以来。
子供達と折り合いが悪く、妻に先立たれても一人で暮らし続ける頑固な老人が、ふとしたことから、毛嫌いしていた隣家のアジア系移民と交流していく物語。
まるで西部劇のような映画。
保安官(イーストウッド)が悪漢ども(モー族の不良グループ)と決着をつけるために、一人で乗り込んで行く。その前に教会にも行き、禊を済ませる。(足りないのは女性とのラブシーンだけだ。)
最近自分が観た映画で同じ構造があったなと思ったら、これは『ガンファイターの最後』であった。実質的なドン・シーゲルの映画である点からも、イーストウッドと共通性があって当然なのかもしれない。
そして、『ガンファイターの最後』のウィドマーク同様、イーストウッドも覚悟の結末へ突き進んでいくのであった。
老人といっても、長身で厚い胸を反らしながら、相手を見下ろすヒーロー然としたところは、昔と寸分変わるものではない。煙草はぷかぷか、ヤニを含んだ唾をペッと吐き出し、昼から缶ビール片手に、いつもピカピカに磨き上げている愛車グラン・トリノを庭先の揺り椅子で眺めている様子は、チョイ悪オヤジ(もう古いか)なんかが足元にも及ばない程、心底カッコイイ。
不機嫌な調子で「うー」と言葉にならない唸り声を発するのも、イーストウッドならではの、男振り。
イーストウッド・ファンにとっては、溜まらない映画であり、メディアが絶賛するのも、理解できる。
が、自分としては、あの結末は、悲し過ぎて受け入れることが難しい。
今の時代に、そして年を経るごとに内省的で複雑になっていくイーストウッドに、もはや勧善懲悪の西部劇を作ることができないのはよくわかっているつもりだが、それでも最後はピストル片手に街を去って行くイーストウッドを観たかったというのが、偽らざる気持ちだ。
少年のお姉さん役が、案外可愛かった。(それだけに、陵辱された姿が痛々しく、その後の予想できる必然的な展開に、穏やかな気持ちではいられなくなるのだった。)
脚本に未成熟な部分も感じたが、それを手慣れたイーストウッド演出で、格調高く仕立て直したといったところか。
エンディングに流れる、イーストウッドの嗄れた、渋い歌声に涙。そこに延々と映し出される、少年に譲ったグラン・トリノが走り去った、海沿いの道路も、強く印象に残り、なかなか座席を離れ難かった。