四月歌舞伎座・昼 先代萩

kenboutei2009-04-08

昼の部。伽羅先代萩の通し。政岡は玉三郎
「花水橋」、初役の橋之助の頼兼が良い。ちょっと胸をそらせて立った時に、殿様の品の良さが備わっていて、感心した。この頼兼は、兄の福助も良かったが、橋之助は立役としての大きさも加わっているのが良い。ただ、引っ込みの時の台詞には、まだ工夫が必要。絹川は染五郎
「竹の間」は、思ったよりテンポ良く進んだ。玉三郎の政岡は、少し痩せた面持ちが、若い印象を与える。仁左衛門の八汐が鶴千代にやりこめられるのが、面白い。子役に対しても、たっぷりとした芝居で魅せていたのがさすが。福助の沖の井は、歌右衛門の声色のような口調で、低音を息を吸い込むように話すのだが、果たしてこの役に合っていたかは疑問。
「御殿」は飯炊き付き。飯炊きがあることで、政岡と千松親子の情愛の強さが確認され、その後のドラマが一層深まることを知ったのは、藤十郎の政岡の時だったのだが、今日の玉三郎にも同じ事が言えた。特に、千松が下手の政岡の方に行って屋台下で政岡を見上げ、政岡の方は、すっと直立して真上から千松を見降ろす時の、両者の構図が美しく、また、玉三郎の左肩の落ち具合いに、千松への溢れる愛おしさと、この先の運命への悲しい予感が象徴されているように思えて、味わい深かった。
千松が殺され、歌六の栄御前を見送った後、玉三郎の政岡は、七三で深い思い入れをしてから、舞台中央の千松のところに駆け付ける。。その時、玉三郎は下手の舞台袖を大回りして、時間をかけて千松のところへ向かう。千松の死に対する動揺や、その動揺を落ち着かせる心の動きなどが、その間の玉三郎の所作によって、よくわかるような気がして、大変感心した。
「御殿」ラストでの、八汐の白、政岡の赤、沖の井の紫と、色のコーディネーションが舞台でよく映えるのも、歌舞伎美の一つである。
「床下」の男之助は三津五郎。型の良さと台詞術で大きさを表す。
仁木弾正に吉右衛門。筋書の記録によると、平成になってからは初めてのようで、もちろん自分も初めて観る。スッポンから出てきた時は、それほどでもなかったのだが、静かに笑いを浮かべ、表情を変えていくと、途端に実悪の怪異さが横溢する。引っ込みは、背伸びをするような動作の後に沈み込むという歩き方で、宙を歩くという口伝を表現。非常に面白い、ワクワクする歩み。容姿のリアリティで魅せた昨年11月新橋の海老蔵の仁木に対し、芸容で魅せる吉右衛門の、大人の仁木であった。
吉右衛門の仁木は、その後の「対決」でも面白かった。仁左衛門の勝元に対し、堂々と台詞で渡り合う。台詞で大きさを表す仁木を観るのは、今回の吉右衛門が初めてである。
 
観る前は、またかと思っていたのだが、なかなか面白い、昼の部の『先代萩』であった。